11月3日、タイで開催されたASEAN関連首脳会議に出席したインドのモディ首相(写真:AP/アフロ)

「RCEP交渉決裂」――11月4日、日本で3連休が終わろうとする深夜、衝撃的なニュースが、タイのバンコクから入って来た。その原因は、「モディの強権のせいだ」(インドに詳しい日本政府関係者)というのだから、穏やかでない。

日本と中国が推進するRCEP交渉から離脱

 RCEP(東アジア地域包括的経済連携)は、ASEAN(東南アジア)10カ国、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの16カ国による自由貿易協定だ。人口で世界の半分、貿易額で3割を占める。習近平総書記が就任した2012年11月以降、中国が交渉を牽引してきた。アメリカが含まれていないところがポイントで、中国はアジア地域に、広大な自由貿易圏を敷こうとしている。

 これに対し日本は、同時期に安倍晋三政権が発足した当初、RCEP締結には消極的だった。それは、同時期に米バラク・オバマ政権が推進していたTPP(アジア太平洋パートナーシップ協定)の交渉を優先しようとしたためだった。こちらはアジア太平洋12カ国にまたがる、アメリカを中心とした自由貿易圏構想だ。参加国はアメリカ、日本の他、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムだった。

 TPPは紆余曲折の末、2016年2月にニュージーランドで、ついに12カ国代表によって調印された。後は年内に、加盟国で批准するばかりとなっていたが、同年11月、アメリカで「TPP断固反対」を唱えるドナルド・トランプ大統領が当選したことにより、再び曲折に向かう。トランプ大統領は2017年1月、大統領就任後わずか3日にして、「TPP離脱」を決める大統領令にサインしてしまった。

 この時点から、アジアにおける「自由貿易の盟主」は、日本と中国に移った。安倍首相は、TPPを諦めるか、それともアメリカ抜きで進めるかという二者択一を迫られたが、選択したのは後者だった。