一瞬の気の迷いが身体と心、そして人生をも破壊してしまう。悪いのは本人なのか、呪われた環境なのか。壮絶な状況で育ってきた行き場の無い人々がたどり着いたのは、「ばっちゃん」だった。本人、親族、そして「家」に集う人々への取材を重ねて見えたものとは? ジャーナリスト秋山千佳氏による渾身のルポルタージュ。(前編/全2回、JBpress)

(※)本稿は『実像―広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実』(秋山千佳著、角川書店)より一部抜粋・再編集したものです。

「ばっちゃん」の無償の愛

 親に小学生の時から覚せい剤を打たれていた子、モヤシを盗んで食べていたというネグレクトの中で育った子など、壮絶な状況で育ってきた子たちに「ばっちゃん」としたわれる女性、中本忠子さん。

 本名よりも、その「ばっちゃん」の通称で知られている。

 彼女は広島市にあるアパートを拠点に約40年にわたり、上記のような非行少年をはじめ、生きづらさを抱える人たちに無償で手料理を提供し続けてきた。

 保護司の頃も定年後の今も、来る日も来る日も、求める人がある限り毎食である。生きるために欠かせない営みである食を介して心を通わせ、非行や犯罪から立ち直らせてきた。その数は把握されているだけで数百人にのぼる。

 こうした活動が評価され、中本さんは2017年だけでも吉川英治文化賞、ペスタロッチー教育賞、内閣府子供と家族・若者応援団表彰(内閣府特命担当大臣表彰)と、大きな賞を立て続けに受賞。3冊の書籍も刊行された。