監督・脚本・主演を務める松尾スズキ ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

 試写を観ている最中は「いったい、何を観させられているんだ」という気にさせられたが、観終わって時間が経つに連れ、「なんかすごいものを観た」という思いが募ってきた。なんという中山美穂。そして、彼女の思いがけない面を引き出してしまった松尾スズキの底知れぬ眼力。

愛する妻への復讐で108人の女性と交わる

 多忙な脚本家・海馬五郎は、専業主婦である妻がSNSで若いコンテンポラリーダンサーへの恋心を綴っていることを知る。その内容に傷つき、ショックを受けた五郎は離婚を決心し、友人に相談。その際、離婚すると、財産分与で資産の半分である1000万円を妻に支払われなければならないと聞く。妻にはこれまでさんざん贅沢を許し、なんの苦労もさせず、挙句に浮気された被害者の自分がなぜ必死に働いて得た金を持って行かれるのか。一銭もやりたくない! 五郎はすべての財産を使い果たすことを決意。彼女の投稿に「いいね!」された数、108人の女性を抱いて復讐するというとんでもない報復を思いつく。

海馬五郎の妻・綾子を演じる中山美穂 ⓒ2019「108~海馬五郎の復讐と冒険~」製作委員会

 もう出だしからもの悲しいほど、くだらない。苦労をさせたことがないと五郎が一方的に思っているところからもう離婚されて当然の男であり、案の定、妻がいなくなって数日で家はゴミ屋敷と化す。こんな素敵な女性がよく五郎の妻であったなとあきれてしまうのだが、その妻こそ中山美穂演じる綾子である。