駅構内から機動隊が催涙弾を撃ってくる。記者たちがこわごわ中をのぞいている(2019年10月1日、香港にて筆者撮影、以下同)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 2019年10月1日は中国の国慶節、つまり建国記念日で、しかも新中国創立70周年という節目の建国記念日だった。

 この日、習近平政権は気合を入れて軍事パレードと大閲兵式を行ったのだが、私はちょうど香港にいて、しかも朝からずっとデモの現場にいたため、この大閲兵式をリアルタイムで見ることはかなわなかった。だが中国で、核弾頭が複数搭載できる射程距離14000キロの新型ICBM東風41がお披露目されることは事前に聞いていた。中国の外国向けプロパガンダ放送局の中国国際放送(CRI)が「世界の平和維持に向けてのシグナル」とか頓珍漢な報道をしていることも知っていた。

 そのさなか、香港ではデモ隊に向けて警官が実弾を6発発射し(威嚇発砲2発を含む)、そのうち1発が18歳の学生の左胸に当たるという一線を超える事態が発生した。香港人はこの日を国慶節ではなく、国觴節、つまり国が傷ついた日、と呼んでいた。本当に10月1日の香港は傷だらけだった。この日、何が起きたか、現場から報告したい。

“盛大に祝う”と予告していた勇武派の若者たち

 10月1日の記念日に、北京に行くべきか、香港に行くべきか、迷ったのだが、結局、香港を選んだ。というのも、北京の報道統制、ネット統制の徹底を噂に聞いていたからだ。私が北京に入ったところで、何もできまい。東京や香港でインターネット回線でCCTVを見ているのと、さほど変わるまい。実際、香港のホテルではCCTVチャンネルが充実し、朝から晩まで祝賀報道一色だった。

 香港の友人たちは、香港に来てほしい、と言った。香港を救うのは国際世論しかない、国際社会に向けての報道が生命線だ、と。

 10月1日の香港は大変なことになる可能性がある、とも言った。香港のデモ隊の勇武派の若者たちは、中国の国慶節を“盛大に祝う”と不気味な予告をしていた。一方で、9月27日から10月3日まで警察に実弾使用許可が出ている、との話も聞いていた。「デモ隊は何をするつもりだ?」と友人に聞くと、「デモ隊の一部が警察から銃を奪う計画を立てている」との噂も流れているという。それで、9月30日に香港入りしたのだった。