9月24日、国連総会で演説する韓国の文在寅大統領(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国はよく分からない国である。日本とは共通する面は多い。もともとは漢字文化圏にあり、儒教を学んできた。戦後はともに民主化を成し遂げ、法治国家となった。また、戦後急速な経済発展を成し遂げた。

 しかし、今韓国で起きていることは、日本人にとって理解しがたいことが多い。こうした点について、私なりの見方を書いてみたい。なお、基本的な韓国理解のためには、小生が執筆した、『日韓対立の真相』(2015年)、『韓国人に生まれなくてよかった』(2017年)、『文在寅という災厄』(2019年、いずれも悟空出版)をご参照いただきたい。

日本では考えられぬ「スキャンダル当事者」の法相起用

 日本人にとって理解しがたい点の筆頭は、なぜ文在寅大統領はスキャンダルまみれの曺国氏を法務部長菅(法相)に任命したのか、ではないだろうか。

 文在寅大統領は、曺国氏の法相任命式において、「本人が責任を負うべき明白な違法行為が確認できないのに、疑惑があるというだけで任命しないなら悪しき先例となる」「曺氏には政権の最重要公約とする検察改革を進める役割がある」と述べた。

 しかし、曺氏には子弟の不正入学疑惑、妻の私文書偽造疑惑、曺氏一家の投資ファンドをめぐる疑惑、父親の経営する学院の工事費をめぐる裁判疑惑、これらを隠ぺいした疑惑など数多くの疑惑がある。これまでの政権では、子供の不正入学だけで、閣僚を辞退した人は何人もいたはずである。そもそも、法相は法の番人である。これだけ不正疑惑のある人を任命するなど日本ではまず考えられない。しかし、文在寅氏は任命を強行した。その背景には、これまでの文氏の政治手法と強いかかわりがある。

 大統領の権限は非常に強い。例えば、文政権の財閥叩きによって韓国で経済活動がしにくくなっているにもかかわらず、財閥が文政権に表立って反発しないのは、青瓦台にとって気に入らないことをすれば、税務調査、衛生調査など政権からの嫌がらせがあるので、あくまでも表向き従っている姿勢を示しているのである。