6月13日、ホルムズ海峡でノルウェーと日本のタンカーが何者かに攻撃され船体を損傷した(写真:AP/アフロ)

 対米戦争の発端は、米国が日本への油の供給を停止したことが大きな動機になった。当時の日本では石油の一滴は「血の一滴」というほどに重要であった。

 今日においては石油の重要性がさらに高まり、しかも、原油の80%以上を中東に依存している。輸送路の安全確保は日本の存続、国民の安心に直接かかわる。

 明治に活躍した山県有朋は日本が守るべきものとして主権線と利益線という概念を打ち出した。

 主権線は日本領土であるが、当時の利益線は半島の安定であり、日本はそのために日清・日露戦争を戦った。

 この顰に倣えば、今日の主権線は周辺諸国に不法占拠されている領土を含む日本領域(領土・領海・領空)であることに変わりないが、利益線(今日では存続の視点から生命線)はどこであろうか。

現代の生命線はシーレーン

 四面環海の日本はエネルギーや鉱物資源、食料などのほとんどを外国からの船舶輸送に依存する。

 具体的には原油・石炭・LNG・LPGといったエネルギー資源の95%を中東と北米から、鉄鉱石などの鉱物資源はほぼ100%南米や豪州・アフリカから、穀物を主とする食料の65%は北米から輸入している。

 地球の裏側であろうとどこであろうと、日本へこうした物資が船舶で運ばれており、世界の安全が維持されて初めて、日本の存続が可能である。

 こうした輸送路(シーレーン)、中でも原油の輸送路防衛の重要性を認識しながら、憲法上の制約からシーレーンの主たる防衛範囲は台湾から日本に至る海域に限定してきた。

 2015年の安保法制審議では、ホルムズ海峡を機雷で封鎖された場合の議論はあったが、ペルシャ湾からホルムズ海峡を経てオマーン湾、インド洋を航行し、南シナ海に至るシーレーンの安全を議論の対象にしたことはない。

 こうした遠隔の地における事象を「言の葉」に上げること自体が許されることではないという意識とともに、米国をはじめとした外国の問題という認識ではなかっただろうか。