©2019「火口のふたり」製作委員会

 恋愛において、よく聞く説は、「男性は過去を振り返り、女性は未来を見る」というもの。あるいは「男性の恋愛はファイル保存、女性は上書き保存」というのも聞いたことがある。つまり、男性は一つひとつの恋愛をそれぞれ大切にしておき、女性は一つの恋愛が終わり、次に行く際、以前の恋愛はきっぱり忘れてしまうという。

 果たして、そうなのだろうか。『火口のふたり』を観ると、男女の恋愛観の差が際立っていて驚いた。

「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」

 離婚して無職の賢治のもとにある日、突然、直子の結婚の知らせが届く。彼女は賢治の幼馴染であり、昔の恋人でもあった。帰郷した賢治は彼女と久しぶりの再会を果たす。どこかよそよそしい賢治と違い、直子は昔のままの距離感で近づいてくる。新生活のために片づけをしていた彼女が取り出したのは賢治が25歳、直子が20歳の頃のアルバムだった。

©2019「火口のふたり」製作委員会

「なんでこんなもの、取っておくんだよ」
「あの頃のこと、すっかり忘れたの?」
「忘れてはないけど、思い出すこともない」
「私は賢ちゃんのことをしょっちゅう、思い出していたよ」

 再会した二人の会話に「あれ? 過去を振り返るのは男性ばかりではないのか」と身を乗り出してしまった。むしろ、男性の方は「思い出さない」って言い張っているけど、本当なのかしら。もちろん、これは男性の強がりであり、彼が頑なになればなるほど、結婚前の大胆さも手伝ってか、直子はいたずらめかして、誘惑の姿勢を緩めない。

「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」

 直子の言葉をきっかけに賢治は抗うのをやめ、二人は体を重ねる。