2016年1月にジャカルタで起きた連続爆破テロの直後、イスラム国のシンパに抗議する女性(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚 智彦)


 インドネシアで今、中東のイラク、シリアに渡航してテロ組織「イスラム国(IS)」に参加した人々の帰還問題が焦点となっている。

 イスラム国家建設という宗教上の目的完遂と聖戦参加のために中東に渡りISに参加したものの、ISが弱体化し解体される中、母国へ帰還する戦闘員が相次いでいる。さらにイラク、シリア当局に拘束された外国籍の戦士やその家族も多数存在するが、イラク、シリアでは彼らに対する処遇が課題となっており、IS掃討の先頭になったシリア民主軍(SDF)を支援していたアメリカは、外国出身のIS戦闘員やその家族については、それぞれの出身国が帰還を受け入れるべきだと主張しているのだ。

 ヨーロッパ諸国の中には自国籍のISメンバーやその家族の帰還を認めないところもでる中、インドネシア政府は「母国帰還を容認する方向で検討」という柔軟な姿勢をみせている。

 ところが治安組織の中からは「インドネシアに帰還後に地元のテロ組織とつながる可能性がある」「新たなテロのネットワークを構築する危険がある」として慎重論が出るに至り、にわかに議論が噴出する事態となっているのだ。

 リャミザード・リャクード国防相は7月9日「ISに関係したインドネシア人の帰還を無条件で受け入れるわけではなく、一定の条件を科すのは当然である」との立場を明らかにしている。これまで報道などによると、政府部内からはISからの帰還インドネシア人は帰還時にインドネシアの国是でもある「パンチャシラ=建国5原則」への忠誠を改めて誓わせるとともに、一定期間は定められた場所に居住させ、再教育を受けさせるほかある程度の行動監視を義務付ける方向で検討が続いているという。

帰還予定IS関連インドネシア人は約100人

 ISの事実上の崩壊を受けてIS関係者を拘束しているイラクやシリアでは外国人に関してはIS内部での役割や過去のテロ行為への関与などを見極めた上で、母国政府が受け入れる場合は帰還を容認する方針も示しているという。

 これまでの情報では、IS関係者が収容されている施設にはインドネシア人の戦士とその家族(女性子供を含む)が約100人いるといわれている。こうしたインドネシア人は当然のことながら全員がイスラム教徒であることから、インドネシア国内のイスラム教団体や政府部内からも「彼らに第2の人生を歩む機会を与えることがイスラム同胞への対応ではないだろうか」との意見が出ており、こうした宗教的寛容性が「インドネシア帰還容認方針」に繋がっているのは間違いない。多種多様な民族、宗教、文化言語が混在するインドネシアが掲げるのが「多様性の中の統一」であり「寛容」であることもそうしたムード醸成の背景にあると指摘されている。