今年6月5日、インドネシアのバリ島で、ラマダン終了の祝祭で祈りを捧げる人々(写真:AP/アフロ)

(大塚 智彦:Pan Asia News)

 人口世界第4位の約2億5000万人を擁し、うち88%がイスラム教徒と世界最大のイスラム教徒人口を抱えるASEANの大国インドネシアが今、大きく揺れている。

 イスラム教徒が圧倒的多数を占めながらもイスラム教を国教としてこなかったインドネシアが掲げてきた建国5原則「パンチャシラ」や国民統合の紐帯となる国是「ビネカ・トゥンガル・イカ(多様性の中の統一)」、そして「寛容の精神」といったインドネシア人のアイデンティティーが問い直され、揺れているのだ。

「パンチャシラ」とは「建国5原則」と言われるもので「唯一神への信仰」「公平で文化的な人道主義」「インドネシアの統一」「協議と代議制において英知によって導かれる民主主義」「インドネシア全人民に対する社会正義」であり、1945年8月17日制定のインドネシア憲法の前文に書かれた国是でもある。インドネシア人は学校教育の現場でこれを暗唱するほど教えこまれる。

社会のあちこちで露呈し始めた「分断」

 4月17日に投票が行われ、5月21日に正式な結果が発表されたインドネシアの大統領選だが、敗北した陣営が「組織的大規模な不正があり、選挙は無効」との訴えを憲法裁判所に起こしており、6月28日にも予定される裁定まで最終確定は持ち越されている。

 得票率で55.5%を得た現職ジョコ・ウィドド大統領の再選続投は揺るがないものの、今回の大統領選は目立った政策論争はなかった。