機械に言葉をしゃべらせて会話することは人類にとって長年の夢だった。いま、インターネットの普及とAI(人工知能)の進化によって、夢の扉が開こうとしている。実現すれば、私たちはどのような未来を手にするのだろうか? 技術ジャーナリスト、ジェイムズ・ブラホスの新刊『アレクサvsシリ ボイスコンピューティングの未来』より、音声AIの功罪を含む近未来予測を全3回にわけてお伝えする。第1回。(JBpress)

(※)本稿は『アレクサvsシリ ボイスコンピューティングの未来』(ジェイムズ・ブラホス著、野中香方子訳、日経BP)の一部を抜粋・再編集したものです。

「見つけてもらう時代」の終わり

 どのような疑問にも答えられるAI賢者(対話型AI)は、ユーザーにとってはとても便利だ。しかし、従来型のウェブ検索で利益を得ていたビジネスや広告主、作家、出版社、巨大ハイテク企業の心情は、率直に言って複雑だ。衝撃を受ける分野もあれば、大きなチャンス、あるいは脅威が生じる分野もある。

 その理由を理解するために、オンラインビジネスの経済をざっと見直してみよう。そこでは“注目”されることが何より重要だ。企業は自らの存在を知ってもらいたい。広告を見てもらいたい。検索業界の専門家であるマイクロソフトのクリスティ・オルソンは、遅くとも、「クリック課金モデル」が目立ってきた2000年以降、アテンション・エコノミー(関心経済。人々の関心に価値が生じる経済)が支配的になった、と語る。

「ユーザーが毎日行う検索が、従来にない広告の手段になった。ほぼ一夜にして、インターネットで『見つけてもらう』ことに価値が、それも多大な価値が生じた」とオルソンは言う。

 見つけてもらうための自然な方法は、人が検索結果から広告主のサイトを訪れることだ。その機会を最大にするために、専門家は、サイトにキーワードを含ませたりして、そのサイトが検索結果の上位に表示されるようにする。このテクニックは、検索エンジン最適化(SEO)と呼ばれる。一方、見つけてもらうための有料の方法として、検索エンジン会社にお金を払えば、検索結果の上部や横に小さな広告を載せてもらうことができる。

 グーグルは、その莫大な資産の大半を広告によって得た。親会社のアルファベットの2017年の売上高は1109億ドルで、このうち86パーセントは広告収入だ(2018年、アメリカで使われたオンライン広告費の56パーセント以上がグーグルとフェイスブックに流れ込んだと推定される)。

 ウェブ検索が唯一の競争の場だった頃、企業は検索結果の上位10件に入るよう工夫した。ユーザーがそれより下にスクロールすることはまずないからだ。その後、モバイルが普及し、小さなスクリーンでのスクロールをユーザーが嫌うようになると、企業は上位5件の座を競うようになった。