何かと話題の映画『空母いぶき』(原作:かわぐちかいじ著、小学館)を見てきました。敵国が侵攻しようとした際の日本の取るべきシミュレーションとして、また極限状態に置かれた組織内の人間ドラマとしてはよくできていたと思います。

 ただし仮想敵国を原作にはない架空の国に設定したのは致命的なミスでしょう。小さな島がいくつか集まって作った連邦が、なぜあそこまでの軍事力を有しているのか。普通に考えれば、背後に糸を引いている大国の存在があり、さらにその大国をけん制している大国があり、単純に、敵国連邦VS日本の図式にはならないはずです。

 そのため戦争が起きるかもしれずに混乱する日本社会の描き方も、どうしても中身の薄いものになっていました。原作のリアルな設定との差に物足りなさを感じたまま、映画館を後にしたのです。

 その点、同じ実写化でも『キングダム』(原作:原泰久著、集英社)は違いました。

 紀元前の春秋戦国時代を舞台に、後の始皇帝となる秦王・政と、後に大将軍になる少年・信が、中華統一を夢見て活躍する物語。今回の実写化は正直期待せずに映画館へ足を運びましたが、いい意味で予想は裏切られました。

 成功した一番の要因は、脚本に原作者が加わっていた点でしょう。そのお蔭で、エピソードを欲張らずに初期の内乱に絞ったストーリー展開、主要なキャラクターたちもマンガとのギャップを感じず、無理なく見ることができました。原作の世界観がまったく壊されず、さらに実写化により視覚の深みも加わったまれにみる作品になっていたのです。

 続編を期待してしまう実写化作品と巡り合うのは、何年ぶりでしょうか。