オープンイノベーション施策の効果とは

 オープンイノベーションを実行する手法の一つとして知られる「出島」戦略。現状、日本ではどの程度浸透しているのだろうか。そもそも、こうした日本流のオープンイノベーションへの取り組み方は、企業のイノベーション施策として効果を発揮しているのだろうか?

 今回は最新の調査結果を基に、オープンイノベーション施策としての「出島」の意義や役割、効果について見ていこう。

大企業がこぞって設置する「出島」

 前述の通り、革新的なイノベーションを起こすため、既存事業や評価制度の枠組みにとらわれない柔軟な発想や実験的な取り組みを許容する場、いわゆる「出島」を用意する企業が増えてきている。多くの場合、大企業とスタートアップ等とでは企業文化やスピード感が大きく異なる。そのため、既存事業を進める大企業本体から切り離したイノベーション拠点を用意することで、外部企業や組織との連携を円滑に行えるようにする取り組みだ。

 2019年2月19日に日本経済団体連合会が発表した「Society 5.0実現に向けたベンチャー・エコシステムの進化」を見ると、スタートアップ連携の専門組織として以下のような「出島」の事例が挙げられている。

●アサヒグループホールディングス「新規事業開発ラボ」
 グループの財務的価値・社会的価値向上に資する新規事業を創出することを目的に、2018年1月に設立された「出島」。

 前身組織となる「生活文化研究所」と「新規事業チーム」が別々に有していた事業開発機能と生活文化調査機能を統合し、スタートアップの持つ革新的な技術や事業モデルを掛け合わせて新規事業開発の加速を図る。

 2019年1月30日には、外部アクセラレーターPlug and Play Japan「ファウンディング・アンカー・パートナーシップ」契約を締結したことを発表し、オープンイノベーションへの取り組みを本格化している。

●東日本旅客鉄道「JR東日本スタートアップ」
 スタートアップが持つ先進技術やサービスとの協業、資本面の提携を含めた成長支援を行うオープンイノベーションの推進母体として、東日本旅客鉄道が2018年2月に設立したCVC。

 同社は2017年4月より「JR東日本スタートアッププログラム」を通じてベンチャー企業等との共創活動を推進していたが、同CVCの設立によってさらにこの取り組みを加速させている。スタートアップ等からのビジネス・サービス提案について、グループリソースの提供等、提案者との伴走により先進技術の活用や新たなサービスの実現にチャレンジしている。2018年度は応募期間中に集まった111件の提案のうち、共に実証実験を行う企業として18社が採択された。

 また、「JR東日本スタートアッププログラム」を通じた取り組みは、昨年度内閣府主催で開催された「第1回日本オープンイノベーション大賞」で経済産業大臣賞を受賞している。

●オムロン「オムロン サイニックエックス」
 新規事業創出を加速する戦略拠点として、オムロンが2018年4月に設立した会社。大学や社外研究機関との共同研究を行い、同社が注力する「FA」「ヘルスケア」「モビリティ」「エネルギーマネジメント」を中心とした各領域の社会的課題を解決するため、ビジネスモデルや技術戦略、知財戦略を統合して具体的な事業アーキテクチャーに落とし込んだ「近未来デザイン」の創出に挑戦している。

 上記はほんの一部だが、オープンイノベーションによる新規事業創出を行うために、組織本体から独立した「出島」となる組織を設ける企業が増加している。

 日本生産性本部が大企業(上場企業および資本金3億円以上の非上場企業)5085社を対象に実施したアンケート調査「イノベーションを起こすための工夫に関する企業アンケート報告書」(2018年12月11日発表)によれば、有効回答社数238社のうち「出島」を設置している企業は54社で、全体の約2割(22.7%)に上った。

 特に2017年に出島を設置している企業が最も多く、54社中13社(24.1%)を占める。さらに、同アンケートの回収締切日が2018年9月25日であったことを踏まえると、発表時点では7社だった2018年も、年末にかけて設置企業が増加していた可能性があり、大企業による出島設置は近年の傾向だと捉えて良さそうだ。