バッキンガム宮殿の敷地内にあるクイーンズギャラリーで開かれていた「ロシア展」

 筆者が英国とロシアの関係に関心をもった動機は、1980年代に遡る。

 当時勤務していた会社では、モスクワ駐在員に対して年度ごとに日本あるいは英国での健康管理休暇が与えられ、指定病院で健康診断を受けることになっていた。

 筆者は子供が小さく長時間のフライトは好ましくないので、毎年ロンドンのクリニックで健康診断を受診していた。

 そのクリニックの院長はR先生と言い70歳代の内科医だった。会社のロンドン支店から予約を入れてもらい、指定時間に我々家族が行くと、いつも大変親切かつ丁寧に診療が始まり、他の患者と遭遇することもなかった。

 R先生はいつも我々がソ連でどんな生活をしているのか大変関心を持っており、お茶をいただきながらかなりの時間そんな話をしていた。

 健康管理には、駐在地での勤務状態のほか、食生活、医療施設のことなど、主治医に知ってもらうことは大事だと考え、筆者からも積極的にお話をするようにしていたためでもある。

 R先生とこんな関係が2、3年続いたあとのある日の診察時、先生は筆者に見せたいものがあると言って、階上の自宅に我々を招待してくれた。

 そこで我々が見たものは、小さな美術館が出来上がりそうな量と種類のロシア美術の展示だった。

 目を丸くする我々家族に、先生はこんな解説をしてくれた。

 「古くから医師として、英国王室と関係のあった祖祖父は、ロシアロマノフ王朝の求めに応じて、王室医として長期間サンクトペテルブルクで働いた」

 「美術工芸品に関心のあった彼は、掘り出し物を見つけるとそれを買い求め、英国の自宅に送った」

 「大型の陶器や絵画は、王室医を辞し帰国する際、ロシア皇室から餞別として贈られたもの。こんなことができたのも、医師という資格でロシアに滞在していたからだろう」