これまでの人生を見つめ直し、いったんリセットしたくなったときに何をしよう? まず思い浮かぶのは、旅に出ることだ。しかし旅に出るには目的地が要る。としたらそれを、建築に定めてみてはいかがだろうか。

 書店で売られている建築のガイドブック類をひもとけば、そこには数多くの名建築が紹介されている。美しく撮られた写真も載っているが、それを見るだけでは建築を“体験”したことにはならない。

 建っている場所に出かけて、遠くから周囲の環境とともに眺めたり、近くから素材を確かめたりする。内部に入れるならもちろんそうして、歩き回りながら五感で味わう。現地に行けば、写真では伝わらないことがどれだけ多いか、実感できることだろう。

 特に光の効果は実に微妙で、実際に体験してみないとなかなかわからない。逆に優れた設計の建築を、天候や時刻など好条件が重なったタイミングで訪れることができれば、忘れられない感動となる。

 本記事では、日本国内にある光の効果で強い印象を残す建築を8件選んで、2回に分けて紹介する。いずれも、感動的な建築体験が可能な場所である。記事を読むだけではなく、ぜひ現地に足を運んでほしい。そこへの旅は、その後の人生に影響を与えるできごとになるかもしれない。(写真はすべて著者撮影)

聖アンセルモ教会(カトリック目黒教会)

聖アンセルモ教会(カトリック目黒教会)、東京都品川区、設計:アントニン・レーモンド、竣工:1954年

 聖なる空間を光によってつくりあげる。いつの時代もキリスト教の建物では、様々な手法でそうした効果をあげてきた。それはたとえば、ロマネスク様式の修道院ならば、厚い壁にうがたれた開口から入ってくる刻々と変化する光であり、ゴシック様式の聖堂ならばバラ窓を透かして入ってくるきらびやかな光である。