沿ドニエストル側に位置するモルドバ地区電力発電所 (同社HP)

 あまり知られていないが、ウクライナは電力輸出国である。ウクライナ危機により一時的に輸出余剰を喪失したものの、今年に入り、ウクライナのDTEK社がモルドバへの電力輸出契約(契約期間: 2017年4月1日から翌3月31日まで)を取りつけ、その復活を印象づけた。

 この契約通りに電力供給が行われれば、これまで主たる供給者であつた沿ドニエストルは輸出市場を失い、経済危機が深刻化することになる。

 一見すると、この契約劇にはモルドバの政治的意図が反映されているようにみえる。何しろ、沿ドニエストルはモルドバからの分離独立を目指す「非承認国家」であるからだ。

 しかし、実際は、沿ドニエストルのパトロンであるロシアの意向が強く反映されている。

電力輸出国ウクライナ

 伝統的にウクライナは旧ソ連諸国に電力を輸出してきた。しかし、ドンバス紛争で石炭供給が不安定になると深刻な電力不足に陥り、2014年夏には各地で停電が発生した。

 この機に乗じてロシアがウクライナのシェアを奪った。ロシア国営INTER RAO社は、対ベラルーシ輸出を増やし、また、同社が沿ドニエストルに保有するモルドバ地区発電所(MGRES)もモルドバにおけるウクライナのシェアを奪った。

発電所をあしらった沿ドニエストル政府の紋章

 モルドバは、電力自給率が2割程度と低く、恒常的な電力輸入国である。

 しかし、ウクライナは、すぐに輸出余剰を回復させる。2016年度こそウクライナはモルドバへの輸出契約を取りつけられなかったものの、今年3月末〆の国際入札で最安値を提示して落札に成功した。

 一方、沿ドニエストルのMGRESは落札できなかった。表向き、MGRESより安い価格を提示したウクライナのDTEK社が勝ち、国際入札によって透明性・競争性が確保された、という評価になろう。