タイの市場。食用昆虫が豊富に売られている。(画像提供:高松裕希)

 海外での食用昆虫ビジネスが活気を帯びている。ここ3年の間にクラウドファンディング「Kickstarter」において、食用コオロギを扱ったプロジェクト4件が目標額に達成しており、総計126万ドルの資金の調達に成功している。

 食用昆虫への投資は増えており、前述の4件のうち1つの企画団体(Exo社)はさらに今年(2016年)3月、400万ドルの資金調達に成功したという。日本においても今年3月、徳島大学の研究グループが学術系クラウドファンディング「academist」を通じて、コオロギ養殖技術の開発プロジェクトを立ち上げている。

 こういった流れを作った大きなきっかけと考えられるのが、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書「食用昆虫─食料および飼料の安全保障に向けた将来の展望─」だ。持続可能な社会にむけた食料生産手段の1つとして、昆虫を推奨している。FAOによれば、2050年に人口は90億人に到達し、食肉の摂取量は途上国において50%増加するほか、世界全体でも3割近く増加すると見込まれている。

 しかし、食肉の生産を担う畜産業は、土壌や水質の汚染、地球温暖化への影響が非常に大きい。世界に排出されるアンモニアの60~70%が家畜に由来するほか、人間活動による温室効果ガス排出量の14%以上が家畜の排泄物や腸内発酵によるものとFAOは試算している。そこで、環境負荷を軽減しながら安定した食糧生産を目指す観点から、昆虫の食用・飼料利用が有望というわけである。

 世界で昆虫食の研究は始まったばかりだが、現在、人間の食用あるいは家畜や養殖魚の飼料としての価値を評価する研究が進められてきている。FAOが報告書を発表する2~3年前までの昆虫の食料・飼料利用に関わる論文報告数は年間1~2報に過ぎなかったが、今年はすでに3月時点で2桁に届き、年々増加傾向にある(図1)。

図1 飼料・食用昆虫に関わる論文数。論文検索サイトScience directより、タイトルおよび要旨のキーワード検索「edible insect」でヒットした中から、昆虫の食用・飼料利用に関わる論文をカウントした。