テキサス州ダラスに住むメリッサ・ヤシーニさんはイスラム教徒だ。
フランスでの同時多発テロをうけてアメリカにも動揺が広がっていた去年(2015年)12月初め、仕事から帰宅したメリッサに飛びついてきたのは、恐怖に顔を引きつらせた8歳の娘ソフィアだった。
「ママ、私たちここから追い出されちゃうの?」
ソフィアは、大統領選に名乗りを上げたドナルド・トランプ候補の「イスラム教徒締め出し論」をテレビで見て、自分たちがアメリカから追い出されるものと思ってしまったのだ。
「あなたは私が守ってあげる」
トランプ氏の主張は、イスラム教徒の入国禁止と、すでに難民として米国に入国しているイスラム教徒の本国への送還であり、米国市民であるメリッサ母子は対象外のはずだ。だが、幼いソフィアには区別がつかない。8歳の心に植えつけられた恐怖は大きく、涙が止まらなかった。
そんな娘に明け方まで声をかけ続け、疲れはてたメリッサは、苦しい思いをフェイスブックに綴った。
「娘は、軍隊がやってきて強制退去になったときに備えて、大切な身の回り品をカバンに詰めはじめ、玄関の錠を何度も確かめに行きました。子供がこんな思いをすることがあっていいのでしょうか」