11月26日、1型糖尿病を患っていた栃木県宇都宮市の男児(死亡時7歳)にインスリン注射をさせずに死亡させたとして、同県下野市の自称祈祷師の会社役員の男性(60歳)が逮捕された。
重篤な疾患を有している患者に、いかがわしい宗教家が近づき死に至らせる。定期的に世間を賑わす事件類型であるが、印象に残っているのが「グル」と呼ばれる怪しい老人が、シャクティパットなる行為で難病を治療できるとして、脳内出血を引き起こしていた患者を病院から移動させ結果として死亡させた、ライフスペース事件であろう。
ライフスペース事件は被告人の異様な風体や言動でメディアの注目を集めたが、法律業界的にも「不作為でも殺人罪が成立する」という点で重要な判例となった。
今回は刑法上の殺人罪の成立と、1型糖尿病という病気の観点から、少しこの事件を検討してみよう。
殺人罪は適用されるか
まず殺人罪(刑法199条)が成立するためには、故意と行為が必要と解されている。