イギリスのシンクタンクがシンガポールで開催した「シャングリラ会合」(アジア安全保障会議)で、安倍晋三首相の基調講演やアメリカのヘーゲル国防長官の講演における対中批判に対して、中国から参加した人民解放軍の王冠中副参謀長は真っ向から反駁した。というよりは、安倍首相の発言に対してはまさに“こき下ろした”。

 先週の本コラムでも、中国の強硬姿勢は、最高指導部による計算ずくの戦略的行動ではないか、という意見を紹介したが、昨今ますます強まっているこのような中国の強硬姿勢を軍事的に支えている理由の1つに潜水艦がある。

国家最高機密である戦略原潜

 中国海軍は「攻撃潜水艦」(通常動力潜水艦)や「攻撃原子力潜水艦」(攻撃原潜)の戦力を飛躍的に増強させているが、ここで取り上げるのは「戦略原子力潜水艦」(戦略原潜)である。

 通常動力潜水艦や攻撃原潜が各種海軍戦略実施のための海軍艦艇として活動するのと違って、戦略原潜は主として核抑止戦略(相互確証破壊戦略)実施のための道具である。いずれのカテゴリーにおいても、潜水艦は隠密性が最大の特徴である。そのため潜水艦に関する詳細な情報は、いずれの国においても極秘情報であり、とりわけ戦略原潜に関する情報は国家機密の中でも最高機密の1つとされている。

 中国海軍はすべてのカテゴリーの潜水艦戦力の強化に邁進しており、それら中国潜水艦戦力の強化状況や個々の潜水艦に関する分析は、アメリカ海軍情報筋にとって極めて高い関心事項となっている。特に戦略原潜に関しては、海軍だけでなくアメリカの全ての情報機関や安全保障関係シンクタンクにとって、様々な対中国軍情報活動の中でも最重要課題の1つとなっている。

 しかしながら、「そもそも何隻の戦略原潜が建造されているのか?」「運用されているのか?」に関してすら、把握するのは極めて困難な状況が続いている。