機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案の国会審議が大詰めを迎えている。政府・与党が12月6日に同法を成立させる考えなのに対し、「秘密の指定が曖昧で報道、言論の自由が侵される」と不安視する見方が根強く、野党、大手メディア、そして有権者の間でも慎重な審議を求める意見が少なくない。

 だが、初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏は「秘密保護法のマイナスの副作用を考慮しても、成立させるべきだ」と強調する。

脅威に囲まれる軍事小国・日本、迅速かつ正確な情報収集が不可欠

佐々 淳行(さっさ・あつゆき)氏 1930年東京生まれ。東京大学法学部卒、国家地方警察本部(現警察庁)入庁、東大安田講堂事件、連合赤軍あさま山荘事件の現場で危機管理の中枢を担う。1977年に防衛庁出向、1986年より初代内閣安全保障室長。1989年昭和天皇大喪の礼を最後に退官。危機管理などの著書多数。

 ウサギは長い耳と早い逃げ足を持つ。防空識別圏を設定した中国や北朝鮮など近隣の脅威が高まる中で、軍事小国・日本は情報の迅速、正確な収集を進める必要がある。

 だが、秘密保護が不徹底で情報が漏れやすい日本は、各国から重要情報の提供を拒まれる欠点があるという。

 世は情報戦。佐々氏は、尖閣諸島や竹島の領有権、慰安婦問題などで中国や韓国が歴史的事実を捻じ曲げて主張するのに対してはすぐさま抗議するなど、情報発信の重要性も訴える。

 そのため日本の主張や独自情報をインターネットや衛星放送を通じて世界に発信する対外情報部門や、サイバー戦争に対抗する特殊部隊を統括する国家中央情報局の創設を提案している。

 警察と防衛の現場で幾多の修羅場を経験し、先ごろ『インテリジェンスのない国家は亡びる』(海竜社)を著した危機管理のエキスパートに、日本のインテリジェンス(諜報)戦略のあり方を聞いた。

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井本 安倍政権が今国会で成立させようとしている特定秘密保護法案には、今も「慎重に議論すべきだ」という意見が根強くあります。「国民の知る権利や言論の自由が制限され、息苦しい世の中にならないか」と。

佐々 政府は秘密保護法案に「知る権利の尊重」や「報道の自由を認める」ことを明記しているし、特定秘密の対象を防衛、外交、スパイ・テロ活動防止に限っています。何でも秘密にするわけではなく、報道の自由は基本的に保障されると思います。

井本 ただ、どれが防衛、外交、テロ活動防止に当たるのか、その範囲を限定するのは難しい。今回の法案では、今まで最長で懲役1年だった国家公務員の秘密漏洩の罰則規定を10年に引き上げます。公務員が必要以上に萎縮し、少しでも外交や防衛に関係しそうなものは秘匿する懸念があります。