アメリカ国防総省パネッタ国防長官は、9月17日、森本防衛大臣との共同記者会見において、「尖閣諸島に関しては日米安全保障条約上の義務を遂行する」と述べるとともに、「アメリカは領土問題のような第三国間の国家主権の対立に関する紛争では原則的に中立を維持する」というアメリカの伝統的立場をも強調した。

 同様に、アメリカ国務省キャンベル次官補は、9月20日、アメリカ連邦議会上院外交委員会(東アジア・太平洋小委員会)で、「尖閣諸島が日本の施政下にあり日米安全保障条約の適用範囲に含まれている」といった旨を証言した。

安保条約の適用範囲と軍事介入は別

 日本のマスコミは、尖閣諸島領有権問題が浮上すると、「アメリカ政府が尖閣諸島を日米安全保障条約の適用範囲と見なしている」とアメリカ政府高官が語ったという報道を流して、あたかも日本の背後には日米安全保障条約によって派兵されるアメリカ軍事力が控えているかのごとき印象を与えてしまっている。しかしながら、尖閣諸島領有権問題がこじれて中国共産党指導部が対日軍事力行使に踏み切った場合、いくら日米安全保障条約(この場合第5条)が適用されるといっても、なにも在日アメリカ海兵隊やアメリカ海軍第7艦隊が自動的に対中国軍事行動を開始することを意味しているわけではない。

 パネッタ長官が釘を刺したように、第三国間の領土紛争にはアメリカは直接軍事介入は行わないというのがアメリカ外交・軍事政策の鉄則である。

撃沈されたイギリス海軍駆逐艦コヴェントリー(写真:Royal Navy)

 例えば、アメリカにとっては日本以上に密接な同盟国であるイギリスがアルゼンチンとの間でフォークランド諸島の領有権を巡って軍事衝突に突入する際に、イギリス本土から1万2000キロメートル以上も離れたアルゼンチン軍に占領されてしまったフォークランド諸島ならびにサウスジョージア島を奪還するための軍事作戦はアメリカの援軍なしでは極めて困難が予想されたにもかかわらず、アメリカは直接軍事介入は行わなかった。

 アメリカ政府は軍事衝突を回避させようとイギリス政府に働きかけたが、「自国の領土を護る気概を失ったならば国家は滅亡したも同然」との持論を貫いた“鉄の女”サッチャー首相は、領土奪回軍事作戦実施を決定した(ただし、アメリカはイギリスに軍事情報提供を行い間接支援をした。また、万一イギリス海軍航空母艦が撃沈されてイギリス軍側が敗北の危機に直面した際には、軍事企業が運用する米国海軍強襲揚陸艦を貸与できるような計画を立案した)。