中国は30年にわたる「改革開放」政策により、著しい経済発展を成し遂げた。だが、依然として法治国家ではなく「人治国家」であるとの批判が多い。それに対して中国政府はこれまでの30年間の法整備を理由に、「法制建設」が著しく進んでいると主張する。

 確かに30年前に比べると、中国の「法制」(法律の制定)は進んでおり、現在は憲法、民法、刑法などの基本法制に加え、物権法、担保法、独占禁止法などの専門法制も制定されている。それによって、人々が日常生活の中で依拠することのできる法的根拠ができたのである。

 その一方で、それを効率的に施行するための施行細則は大幅に遅れている。何よりも、行政、立法、司法の三権分立が導入されていないため、法の執行が不十分と言わざるを得ない。

法治政府の実現が第一歩

 中国はなぜ今でも人治国家であり、法治国家になれないのだろうか。それは、法を運用する政府に最大の原因がある。

 法治国家において、政府は法によって認められる事項以外のいかなることも行ってはならない。しかも政府は国民による調査と監視を受ける義務があり、拒否してはならない。すなわち、法治国家を実現するには、まず法治政府を実現する必要がある。

 しかし、現在の中国政府は、「法制建設」が徐々に進んでいるとはいえ、法治政府にはなっていないのが現実である。往々にして中国政府は社会安定の維持と経済発展の必要性から「臨機応変」に法を運用している。

 例えば、昨年のリーマン・ショック以降、景気が急速に後退した。それに対応するために、2008年11月9日、国務院は急遽、4兆元(約56兆円)もの景気刺激のための財政政策を発表し、12月にその一部が実施された。

 景気浮揚の必要性が十分に認められるとしても、本予算に含まれていない補正予算を、全人代(国会)での承認を経ずに実施に移すのは、明らかに法的手続きが不十分だと言わざるを得ない。

 もう1つの例は2008年1月に施行された新しい「労働契約法」である。同法によれば、企業経営者は従業員との雇用契約を最低10年間破棄できないと明記されている。そして、従業員の労働保険や失業保険などの社会保障制度への加入を義務付けている。

 これまで、中国企業は労働者保護の姿勢を明確にしてこなかった。新しい労働契約法が企業にとって大きな負担となっているのは間違いない。その結果、多くの地方では、企業、とりわけ外国企業の撤退を懸念し、同法の運用について「臨機応変」に行っているようだ。すなわち、法によって明記されている労働者保護の規定を、勝手にトーンダウンさせている。

 本来は、法の絶対的な権威が確立されるからこそ法治国家が誕生するのである。政府が勝手にその時の情勢に応じて法の運用を「臨機応変」に行ってしまうと、法は単なるアクセサリーや飾りとなってしまう。

共産党は司法ではない

 法の権威を確立させるには、まず裁判の公正性を確保しなければならない。そのためには、民主主義国家で「人類の普遍的な原理」とも言われる「三権分立」を導入する必要がある。だが、残念ながら2009年3月の全人代でも、呉邦国委員長(議長)は「我々は西側諸国の議会制度と三権分立を取り入れるつもりはない」と従来の姿勢を繰り返した。