ⒸBob Hines/NASA

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第2回は、ボーイング社の新型有人宇宙船「スターライナー」が注目を集める理由、アマゾン創業者の率いる企業が進める民間宇宙ステーションの開発、さらに投資ファンドも狙うロケット開発運用企業の買収など、アメリカの宇宙ビジネスの最新の動きに迫る。

<連載ラインアップ>
第1回 スペースXが開発した史上最大のロケット「スターシップ」は何がすごいのか
第2回 ボーイング傘下の国策ロケット企業を、なぜジェフ・ベゾスが狙うのか?(本稿)


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ボーイング社が打ち上げる、アメリカ史上6機種目の有人宇宙船

 アメリカで新たな有人宇宙船がデビューしようとしている。ボーイング社の「CST-100スターライナー」は5月7日以降に初の有人フライトテストに臨み、2名の宇宙飛行士をISS(国際宇宙ステーション)へ送り届ける予定だ。

 一方でボーイング社は7四半期連続で最終赤字を計上するなど、その経営は厳しい状態にある。また、同社が出資するロケット運用企業ULA(United Launch Alliance)社の売却も報じられている。さまざまな意味で注目を集めるスターライナーとボーイング社の現状を俯瞰してみたい。

 アメリカでは過去に5機種の有人宇宙船が運用されてきた。1人乗りのマーキュリーは米国人を初めて宇宙に到達させ、2人乗りのジェミニは米国初の宇宙遊泳や軌道上ドッキングを実現し、アポロ宇宙船は27名を月へ送り届けた。

 スペースシャトルは1981年の初打ち上げ以降、30年間で計135回打ち上げられたが、その退役後、アメリカでは有人宇宙船不在の期間が9年間続く。しかし2020年、シャトルの後継機として開発された米国初の民間宇宙船クルードラゴンの有人打ち上げが成功したことにより、米本土からの有人打ち上げが復活。そして2024年5月7日以降(日本時間)には、第二の民間機であるボーイング社の「CST-100スターライナー」が打ち上げられる。搭乗するのは男女計2名のNASA宇宙飛行士。実際にクルーを乗せて飛ぶ宇宙船は米国史上、これが6機種目となる。

1回目のフライトテストOFT-1でホワイトサンズ宇宙港に着陸したスターライナー。ⒸBoeing

 機名のCSTは“Crew Space Transportation”(人員宇宙輸送)の略称であり、“100”は、高度100km以上とされる宇宙を意味する。スターライナーという名は、ボーイング社の航空機787ドリームライナーなどに通じる同社ブランドを象徴する。

 アポロ8号(1968年打ち上げ)以後、アメリカの有人宇宙船は全てケネディ宇宙センター(フロリダ州)から打ち上げられてきた。しかし、同センターの2つのパッド(発射台)は現在、月へクルーを送るSLSロケットと、スペースX社の専用パッドとされている。そのためスターライナーはケネディ宇宙センターに隣接するケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられる。同基地から有人機が打ち上げられるのは56年ぶりだ。

 スターライナーはISSへドッキングし、約8日間滞在した後、大気圏に再突入して帰還する。米国のカプセル型宇宙船はこれまで全て海上に着水してきたが、スターライナーはニューメキシコ州のホワイトサンズ宇宙港へ、つまり初めて地上に着陸する。