お盆も過ぎ、夏休みシーズンも終わりに近づくと、
夏の疲れがどっと押し寄せる。
まだまだ暑さは衰えないのに、体力だけが衰えていく。
トレンド系メディアの食いしん坊記者・Sもまた、
夏バテにやられた1人。
そんな彼が向かったのは、おなじみ《すき家》だった。
だるい。食欲がない。たっぷり寝たはずなのに疲労感が抜けない。
完全な夏バテだ。
夏休み前に仕事を一段落させるため無理したのがまずかった。休み中も家族サービスに追われたせいで、休みが明けたとたん疲れがダブルパンチで襲ってきた。
なんだか口に食べ物を入れる気が起きず、冷たいものを飲んでばかり。ふんばるときはドリンク剤。これじゃ体にいいわけないよ、と分かっちゃいるけどやめられない。
でも、いったい夏バテって何なんだ?と調べてみると、
・暑さで体に負担がかかり、疲れやすくなる
・冷房と外気の温度差などで自律神経の働きが悪くなる
・汗と共に体内のミネラル分が排出されて不足する
・冷たいものを飲み過ぎて胃腸の働きが衰え、栄養の吸収が悪くなる
といったことが主な原因となるらしい。
全部当てはまるなあ。まあ働く人は誰でも似たようなものだろうけど。
つまり、誰でも夏バテになる危険性があるってことだ。
お盆が明けると企業の動きも活発になってきて、ビジネストレンドを追っかける仕事のほうは大忙しだ。なのに、気力がおっつかない。
午前の取材の帰り、ふと横を見ると相棒の若手記者もぐったりしている。聞けばやっぱり食欲がなく、朝飯もほとんど食べていないんだとか。元気が取り柄の若手がそれじゃダメだろう。
しょうがない、ここは先輩らしく昼飯でもおごってやるか。
とはいえ、夏バテ2人男がどこに入ったものか……。
そのとき、目に入ったのが、すき家の赤いどんぶりマークだった。
すき家か。そういえば、ここのところ食欲がなくて足が遠のいていたな。
よし、行ってみるか!
近づくと、店頭のポスターが目に飛び込んできた。
この牛丼の上に鎮座した濃い緑のニンニクの芽……、まちがいない、《ニンニク牛丼》だ!
すき家の「もう一度食べたいメニュー」ランキングでもナンバーワンに選ばれたという人気牛丼で、もちろん僕も大のお気に入りだった。期間限定で惜しまれつつメニューから消えていたんだが、ついに復活したんだ!食欲不振とか言ってる場合じゃないぞ、これは食べずにいられない。
カウンターに座った後輩は、まだ食べる気がわかないのかメニューを前に悩んでいる。そこで助け船が入った。豚しょうが焼きだ。近くのお客さんが頼んだ豚しょうが焼き定食からなんともうまそうな匂いが漂ってきたのだ。甘辛いタレにしょうがの香り。胃袋が目を覚ましたようにぎゅうっと収縮する。この感じ、ずっと忘れていたよ。後輩も思わずのどを鳴らして、ただちに同じものをオーダーする。
いつ来てもほれぼれする素早さで、待望のニンニク牛丼が運ばれる。これこれ、見た目からピリ辛の唐辛子をまぶしたニンニクの芽がたっぷり。すき家のトッピング牛丼は具がふんだんに乗っているからキャラクターがはっきりするんだよね。
立ち上る唐辛子の刺激的な香りに、ニンニクの香りがあわさって食欲がそそられる。スタミナ食と言えばニンニクだけど、ニンニクの芽も栄養価はほぼ同じ、加えてカルシウムやビタミン類は普通のニンニクよりも豊富、さらに食物繊維も摂れる、いいことづくめの食材なのだ。
そういえば午後の取材先には業界でも有名な美人広報担当がいるのだった……。ちょっと匂いが気になるが、そんな色気を出している場合じゃない。今は体力優先だ。それに、ニンニクの匂いの元である成分アリシンには、ビタミンB群の吸収を助ける効果があり、疲労回復、滋養強壮にはもってこい。もちろんニンニクの芽にもアリシンが含まれている。まあつまり、ニンニク牛丼は夏バテにこれ以上ないメニューってことだ。
ニンニクの芽は食べやすい大きさに切られてボイルされているので噛み切りにくいこともなく、ほどよいシャキシャキ感が心地よい。野性を感じさせる滋味と唐辛子のピリ辛が、ツユで柔らかく煮込まれた牛肉の甘さとベストマッチ。まあご託を並べずとも、ひとことウマイ!
一方の若手後輩君もまた、さっきまでのゲンナリした様子が嘘のように豚しょうが焼き定食をもりもりと腹に収めている。
甘辛い醤油ダレで炒めた豚肉、食欲を刺激するしょうがの辛み、ああ、想像するだけで頭の中で豚の脂身の甘さ旨さが蘇る。次は必ず食べるぞ!
あっという間にご飯の丼を空にした後輩は、味噌汁を飲みつつ「せっかく無料なんだから大盛りにしとけばよかった」などとぶつぶつ言っている。おまえ注文するまではごはんミニにしようかとか言っていたくせに。まあでも元気が出たようでよかった。
それもそのはず、豚肉は疲労回復の源、ビタミンB1が豊富な食べ物。さらにしょうがは味を引き立てるだけでなく、辛味成分ジンゲロンには血行を促進して身体を温める作用があると言われている。
それからすき家のメニューの土台ともいえる白米ごはん、これも立派な栄養食。炭水化物はもちろんとして、ミネラルやビタミン、必須アミノ酸などを多く含んでいる。消化がゆっくりで腹持ちがいいことも力を保つのに役立つ。
うん、まあ、つまり、豚しょうが焼き定食、これまた夏バテにこれ以上ないメニューといえるのだ!
おいしいスタミナメニューですっかり気力を取り戻した僕と後輩。
食後、後輩君は珍しく気を遣って空になった2人のコップに冷たい麦茶をつごうと水差しを取り上げた。その時、ふと思って彼を制止する。
スタッフにひとことふたことたずねると、ニコリと笑顔を見せてすぐにお茶を2杯持ってきてくれた。
夏の間、当然お店ではお客さんに冷たい麦茶をサービスするのだが、せっかく元気をもらった今日は、温かいお茶がほしかったのだ。聞いてみたところ、お茶もお出しできますのでご遠慮なく申しつけてくださいとのことだった。
久しぶりに満ち足りた胃袋が、重いけども力強い。なんだかダイナモのように活力を生み出してくれる。暑いからって適当にものを口に入れるだけじゃ、ますます力が出なくなるのは当然だったよ。
午後もしっかり仕事をするならやっぱり米の飯、米の飯をおいしく食べるなら、すき家。またしてもこの公式に助けられた。
それじゃあ、いっちょ午後の仕事も頑張りますか。
「はい!」
腹に力のこもった返事がもどる。おっ、こいつもすき家に元気をもらったな。
店を出ると再び残暑が襲いかかる。でも、もう負けたりはしないさ。
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