「ネクスト・フィフティ」50年先を見据えた行動

蟹瀬 さて、もっともお聞きしたいところですが、来年のマーケットの予測というか、展望はいかがですか?

田下 やはり中国に関心が向きますね。グローバルな視点から見ても中国のマーケットは大きい。私どもの調査では、いまは沿岸部が主ですが、内陸のマーケットが拡大していることが明らかです。中国は以前の擬装問題や食品衛生上の問題を経験し、学習しながら、国際化に向かっています。安いだけでなく、品質に目が向き始めたのは大きい。

田下氏

蟹瀬 日本のブランドはいまやバブルのようですね。

田下 とくに食品などが高値にかまわず人気のようです。美味しいからか、品質、安全性なのか、ブランドとして価値を持ち始めています。バブルに乗るのではなく、それにまじめに応えて行ければ成功しますね。

蟹瀬 いずれにしてもグローバルにバランスを見て行かないと、未来像は描けない。

田下 結局、日本の高度成長時代もそうですし、中国も同じですが、消費する人、働く人が増えない国が成長するのはむずかしい。日本が人口減少社会に突入したことは、当面の景気対策以上に重要な課題だと思います。

蟹瀬 マクロでいえば世界経済は成長し続けると思っています。なぜならいまだ人口が増え続けているからです。いまの67億が40年後には100億近くに増えます。

田下 これからは人口の増える国が当然成長して行く。

蟹瀬 その意味ではインドもそうですね。すんなり進むかは別に。

田下 それぞれ国ごとに因習やしきたりもありますし。

蟹瀬 アメリカもその点、移民などで例外的に人口が減らない。日本の場合は今の出生率からいけば、おそらく100年後は、6000万人くらいになるといわれています。さらに100年たつと1000万人くらい。西暦3200年になると、1人になるんですよ。

田下 人口減少社会に突入した後、どうカバーするのか。それは国家ビジョンとして、考えないといけませんね。さらに、最近の傾向としては、インターネット調査は若い人のほうが難しくなってきました。若い人はPCではなく携帯ですから。逆にリタイアした団塊世代は、ネットが唯一の社会の窓という方もいますから、お年寄りの調査のほうが簡単になるかもしれませんね。

蟹瀬 マーケティング・リサーチも変わっていきますね。もう少しすれば、人口の半分が65歳以上になる。そうなると、我々がマジョリティになるんです。10年前でさえ、考えられなかった。
そんな激動の中、インテージとしても来年50周年を迎えて、新たな構想がおありでしょう。

田下 いろいろ事業を考えております。いい機会なので、まずインテージのDNAとはなんぞや、ということで「インテージ・ウエイ」を明文化する作業を進めています。仕事の進め方や価値観・行動規範の共有化が狙いです。今後のグローバル展開を見据えての企画です。それから社内外には「NEXT50」というフレーズで、今後どんなメッセージを出していけるか、皆で検討を進めています。あとは少し変ったところで、50年史の編纂を通じて、草創期からの調査法を技術史としてまとめる作業もはじめています。

蟹瀬 それは面白い試みですね。あまり知られていない。

田下 それから、この間、C.Wニコルさんが主宰するアファンの森のお手伝いをしてきましたが、記念事業として、森の風景のライブ映像をインターネットで中継して、社内に流すことを始めたいと考えています。うまくいけば賛同する企業を募り、NPOとしてうまくお金が回る仕掛けにして、アファンの森にもメリットがあるようにしたいですね。私は会社の存在や事業そのものが社会的な責任を果たすべきだと考えていますので、ことさらCSRなどと、あまり大声では言いたくありませんが。

蟹瀬 たしかに企業のCSRというのは、いわば当たり前のことで大声出すものではありませんね。最後に、つぎの50年に向けてインテージとして、何が大切とお考えですか?

田下 これからは情報が無限にある時代です。さらに情報の不可逆反応というか、過去が参考にならないケースも増えています。したがって大切なことは、新しい環境の中で個々の情報の価値を創造する力だと考えています。それはリサーチ業界全体のテーマとなると思います。

Kanise's Eye

蟹瀬

 台風の眼のように、人は真ん中にいるとまわりの嵐に気づかない。 まさにわれわれはいま、インターネットという嵐の中にいることをあらためて痛感する対談だった。戸別訪問という、いまや原始的ともいえる市場調査から半世紀にわたるインテージの歩みは、ネットの登場によって大きな飛躍の時を迎えたようだ。しかし、ネット時代はまだ助走を始めたばかり、過剰な情報に翻弄される人も少なくない。その意味でいち早くマーケティング・リサーチをネットにシフトさせた同社の価値ある情報は、今後ますますユーザーのニーズに応えていくことだろう。情報は無いのはもちろん、あり過ぎても困るからだ。そしてあと一つ、経営者に必要なのは、瞬時に判断する動物的な勘だろうか。