11月20日(金)、ウェスティンホテル東京にて開催された「インテージフォーラム 2009」(主催:株式会社インテージ)には、この不況から抜け出すヒントを求めて、様々な業種から大勢のビジネスパーソンが来場した。現在のようなモノが売れない時代の中、マーケティング・リサーチ業界のパイオニアであるインテージが提唱する経営におけるインサイト、近未来への洞察や新たな動向に対する関心の高さがうかがえたといえよう。
 「アクショナブル・インサイト」と題された、今回で9回目を数えるフォーラムでは、事例を含めたソリューションが紹介された5つのミニセッションのほか、 “日米中の消費者国際調査”など、同社からのメッセージを発表した講演、そして、日本のマーケティング界の先駆者であり、流通科学大学学長の石井淳蔵氏を迎えての特別講演と、興味深い発表が数多く展開された。
 各ミニセッションと連動した展示ブースでは、セッション終了後に、より詳細な説明を求めるビジネスパーソンで活況を呈し、各々のビジネスにおいてイノベーションを引き起こすためのエッセンスを吸収しようという熱意にあふれていた。

キットカット、セブンイレブン・・・、ヒットの裏側のキーワードはビジネスインサイト 特別講演「ビジネス・インサイトー創造的な知による顧客との共生」
流通科学大学 学長 石井淳蔵 氏

流通科学大学 学長 石井淳蔵 氏  今回のフォーラムのキーノートでもある特別講演では、流通科学大学学長であり、今年4月に「ビジネス・インサイト---創造の知とは何か」を著述した石井淳蔵氏が登壇した。専攻が経営学、マーケティング論である石井氏は、これまでに数多くのマーケティングに関する著書を執筆しており、日本のマーケティングにおける先駆者の一人でもある。今回の特別講演では、この著書「ビジネス・インサイト---創造の知とは何か」の中から、ヒットを生み出すためのインサイトの重要性について、具体的な事例を取り上げながら語った。
 石井氏の母校である神戸大学のビジネススクールの機関誌は、20年も前から「ビジネス・インサイト」と名付けられ、発行され続けている。一般的にはあまり馴染みのない言葉であるが、これからの経営にとって欠かすことのできない力であると考えてネーミングした経緯がある。しかしながら、学外でこの言葉に出会ったのは、ほんの数年前のこと。それは、ネスレコンフェクショナリー社の高岡浩三社長と会った際に、「キットカット」というヒット商品について、高岡氏がさかんに「インサイト」という言葉を口にしたのだと言う。
 もともとイギリス生まれの伝統あるチョコレート菓子「キットカット」は、日本では当時お買い得商品的なお菓子でしかなかった。高岡氏は日本における独自の付加価値を付けないと市場から消えてしまう可能性もあることを考え、ブランド構築を模索していた。「キットカット」の一番の基本コンセプトは“Have a break, have a kitkat”。日本人の生活の中における“Have a break”とは何かを考え、突き詰めていったところ、「ストレス・リリース(ストレスからの解放)」というコンセプトに到達したのだが、九州からの一本の電話が、このコンセプトをさらに発展させるひらめきを生むことになる。電話の内容は、九州では、1、2月に「キットカット」の売上げが大きく伸びる。その背景には、「きっと勝つ」という受験生にとって響きの良い言葉が、この地方の方言で「きっと勝っとう」と発音され、語呂合わせでゲンがよいと思われていたのだ。更なる売上増を目指し、九州地区から店頭用のPOPを作成して欲しいと依頼が舞い込む。当時、マーティング担当者であった高岡氏は、これだ!とひらめいたという。人生において強いストレスである受験、そのストレスを和らげるのに一役買うのが「キットカット」であり、「ストレス・リリース」そのものであると。その後、全社挙げての全国キャンペーンへと展開することとなるのだが、これこそまさに、「インサイト」に導かれてのコマーシャル・イノベーションの一例であるとし、あらためて、「インサイト」がマーケティングを考える上で、非常に大切なコンセプトであることを認識したという。