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日本の「右翼」がロシアを歴史的訪問
右翼も変わる、ロシアも変わる

2009年04月14日(Tue) コンスタンチン・サルキソフ

 3月中旬、まだ日中の気温がマイナス6度というロシアに行ってきた。「日本青年社」という日本の民族派団体(いわゆる「右翼団体」)が初めてロシアを訪問することになり、ロシア政府関係者との会合セッティングやスケジュール調整を私が引き受けることになったのだ。

 30年ほど前、私は東京・狸穴町のソ連大使館で文化担当を務めていた。その頃の記憶と言えば、「右翼」の宣伝バスが大使館に近付いてきては、「北方領土を返ーせーえーえ!」「イワンのバカは、帰ーれーえーえ!」と、耳をつんざくような叫び声で怒鳴っていたことである。

 それが今や、その団体の1つと一緒にロシアに行くことになった。団員の行動はとても紳士的であり、またロシア人に対して友好的な態度を取っていた。その様子は、30年前とはまさに隔世の感があった。

 「右翼」さえも原則論にこだわらず、「歩み寄り」で北方領土問題を解決すべきと思うようになったのか。もしもそうだとすればロシア側の対応にも影響を及ぼし、両国が妥協案を探りやすくなるかもしれない。

 日本青年社とロシアの政府関係者との会談の内容は、日本青年社がWebサイトで報告しているので、そちらを見てもらった方がいいだろう。印象的だったのは、訪問団の団員が「世界は劇的に変わっており、新生ロシアも変わっている」「我々とロシアは自由と民主主義の価値観を共有できる」と語っていたことだ。

 日本青年社も変わったのだろうが、ロシアは本当にそんなに変わったのだろうか。私もロシアを新しい目で見てみようと思い、訪問団の帰国を見届けてから、しばらくロシアに残った。

モスクワを歩いて感じたこと

 モスクワを歩いてみると、町のあちらこちらに工事の途中でほったらかしにされた高層ビルがある。その光景を見る限りは、ただならぬ雰囲気を感じさせる。食料品店に陳列されている商品はすっかり少なくなっており、物価は高くなっている。

 しかし経済危機の影響は、実際はそれほど深刻ではなさそうだ。物乞いやホームレスの数が急激に増えたというような兆候も見られない。

 ルーブルは今年の1月から暴落していたが、3月に底を打って次第に持ち直してきた。「ロシアはまだ大丈夫だ、危機を乗り越えられる」という見方が出てきたようだ。だが、楽観視は許されない。このまま景気の停滞が長引けば、何が起きるかは分からない。

 政治を見ると、民主主義がだんだんと根付いてきたような印象を受ける。プーチンが表舞台から一歩退き、心理的な圧迫感が弱まってきたからかもしれない。

 一方で、治安対策に力を入れるようになっている。モスクワのベラルーシ駅の近辺にある全日空・モスクワ支店に、航空券を買いに行った時のことだ。支店は普通のオフィスビルの中にある。以前は、支店に誰でも自由に入れた。

 だが、今回は身分証明書を提示しなければならなかった。身分証明書のデータは警備係に記録された。出る時は、身分証明書のコピーを警備員に手渡さなければならない。ここまで厳重に警備するのは、テロ対策のためであろうか。メドベージェフ大統領は秩序維持を非常に重視しており、その成果が至るところに見られる。

 他に感じたこととしては、新聞やテレビといったマスコミによる政府批判が増えてきたような気もした。経済危機の中で、プーチンが築いてきた政治体制は明らかに批判の対象となっている。

 現在、憲法上の最高権力者はプーチンではなく、メドベージェフである。そのため、マスコミの注目はだんだんとメドベージェフの方に移っている。実際にテレビ画面に登場する頻度は、最近はメドベージェフの方がプーチンを上回っている。

 もちろんメドベージェフにはプーチンの後ろ盾がある。その意味では統制主義的なプーチン主義に与する人物と見られても仕方がない。しかし実際のプーチンは権力を振りかざすことはせず、法律によって国家を統治することを重視する人物だ。クレムリンのスタッフの顔触れが変わったこともあるのか、メディア規制はかなり柔軟になってきたかのように見える。

ロシアの愛国主義の土台は反米思想

 外交に目を転じてみよう。ウクライナ経由のパイプラインの整備と管理を巡って、欧州との対立が再燃していたが、現在は全般的に落ち着いている。

 また、オバマ政権の誕生によって、ロ米関係が修復の時期を迎えようとしている。ロシアの民主主義推進にとって一番大きな障害となるのは米国との関係である。

 今回、日本青年社がロシアを訪問したのには、日本とロシアの愛国主義を比べ、新生ロシアの民族主義の動向をつかむという課題もあった。

 代表団は、政府与党の「統一ロシア」に近い青年団体と対話をしたり、モスクワ地区の共産党の本部を訪れ、「グローバル化の中で国民国家の利益や伝来の国民文化をどう守ればいいのか」など、興味深い対話を繰り広げていた。

 日本・ロシアの愛国主義の違いとして明らかになったのは、ロシアの愛国主義の土台は反米思想だということだ。反米ムードが高まると、プーチン主義が復活するかもしれない。だから、ロシアに民主主義を本当に根付かせるためには、米国との関係修復が欠かせない。

「誰の責任か」も「何をすべきか」もうやむやな状態

 マスコミの報道を通して、ロシアがどれだけ自由な雰囲気であるかを知ることができる。もっとよく知るためには、文学や演劇に接するとよい。

 モスクワの「風刺劇場」で公演されている「ホモ・エレクトス(Homo Erectus)」という芝居が話題になっているので、見に行ってみた。

 それはこんなストーリーだ。ロシアの成金が自分の豪華なアパートに2組の夫婦を招待する。目的は夫婦交換のセックスパーティーだ。

 2組の夫婦の夫は、改革派の有名な政治家と新聞記者だ。実は2人ともその成金から賄賂をもらい、ロシアの民主主義を裏切っていたことが明らかになる。

 3人は、ロシアに民主主義が成功していないことの責任を互いになすりつけ、喧嘩する。その最中に、労働者を代表する労働組合代表がアパートに侵入してくる。組合代表は3人を有罪と断定し、3人を斬首刑に処そうとする。

 ところが、その途端に主人公の成金が、自分を処刑しようとしている人間が組合代表であることに気づき、彼にも賄賂を与えたことを明らかにする。組合代表は恥をかかせられ、自分の罪を認める。

 「誰の責任なのか」。ロシアでは今まで何度もこの質問が繰り返されてきたが、いつも答えがない。だから「何をすべきか」という問いにも答えようがない。プーチン主義が行き詰まり、経済危機に見舞われている今のロシアは、まさにそんな雰囲気のようだ。