本来のトヨタ生産方式を説く、本コラム「本流トヨタ方式」は「自働化」の話に入って今回で16回目になります。

 先回、「本流トヨタ方式」が対象とする個人は、「自分で考えて決める自律」「生活費を自分で稼ぐ自立」「凜として生きる自尊心」「確立した信念」を持ち、自由主義経済を支える市民であることと書きました。

 一方、組織体の活動を金銭的に分類すると次の3タイプになることを説明しました。

【A】公共料金型──売値は「原価+適正利益」の式で当局が決めるので、向上努力は不要な組織体。かつての国鉄、専売公社、今の電力、新聞、医薬品がこれに当たる。

【B】民間企業型──利益は「売値-原価-維持費」で計算され、売値も原価も市場で決まる。努力しないと生き残れないが、付加価値を生み経済活性化の源となる。

【C】官庁型──集めた税金から役所の食い扶持を除き(マイナスの付加価値)、残りを年度内に配るだけ。ここを経由するお金は自由経済を冷やしてしまう。

 「本流トヨタ方式」は厳しい市場競争にさらされている【B】を対象にします。ただし【B】の中で、競争に強いとされるいわゆるコンベア方式は、人間性を阻害する側面を持っていると、チャップリンが自作映画「モダン・タイムス」で警鐘を鳴らしました。

 トヨタではこの警鐘に真っ向から対峙して、高効率と人間性尊重の両立の道を探りました。そのキーワードは「業務の中にスポーツの良さを取り込む」ということでした。

「スポーツ」と「労働」はどう違うのか

 筆者は少年時代、信州の山村で過ごしました。母の生家が農家だったので、農繁期には手伝いに行かされました。

 山に2~3キロメートルほど入った沢にある棚田は、見た目は綺麗ですが、それは農家の弛まぬ努力があってのものでした。春先には田にすき込む堆肥を運び上げ、秋には収穫した稲わらを運んで下ります。当時は人馬しか通れない山路でしたから、1頭の馬と数人の大人と1人の少年(筆者)が目一杯荷を背負い、汗びっしょりで往復したのでした。

 南アルプス麓の標高700メートルの山路は山野草が咲き、絶好のハイキングコースにもなるので、人によってはお金を払ってでもやりたいと言うかもしれません。でも、筆者には、「山歩き=労働」という固定概念がありました。