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「反転攻勢」発射台の09年
杉山全銀協会長インタビュー

2009年01月05日(Mon) 中野 哲也

 全国銀行協会の杉山清次会長(みずほ銀行頭取)はJBpressとの新春インタビューに応じ、「個人的見解」としたうえで次のような考えを表明した。米国経済の現状については「金融バブルが個人消費を押し上げ、国内総生産(GDP)の7割を超えてしまうという、特異な状況が崩れたということではないか」と言明。その一方で、米国では住宅価格底打ちが景気回復の条件となり、株価は住宅価格の底打ちより少し早く、最短では今秋に回復基調へ転じる可能性を指摘し、2009年が「反転攻勢」の発射台になればよいとの期待感を表明した。 

 邦銀の経営に関しては「(相場下落時に資本を棄損する)株式の保有が欧米金融機関などと比較してまだ多過ぎる」と述べ、政策保有株式の削減を中長期的な課題に掲げた。また、メガバンクから中小金融機関、ゆうちょ銀行までひしめく金融界の再編をあり得るとしている。インタビュー内容の要旨は次の通り。

 JBpress 昨年起きた金融危機の背景をどう分析しているか。

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 杉山氏 当初はサブプライムローン問題とされていたが、個人消費がGDPの7割を超えるという、米国の特異な状況が崩れたということではないか。崩れた以上、縮小均衡を探るのであろうが、その方向性がはっきりせず、将来を見通せないという状態が続いている。

 ―今回の危機と日本のバブル崩壊は何が違うのか。

 杉山氏 基本的に異なる。日本のバブルはあくまでローン(銀行貸し出し)が原因。貸し出しをどんどん増やし、不動産などへ資金が流れ、資産価格が下落した結果、不良債権が膨らんだ。どの銀行の経営者もある時点で「不良債権処理を終えた」と考えたものの、実体経済の更なる悪化とともに不良債権が増えていった。しかし、それはあくまで日本の問題だから、国内で新しい方向性を出せばよかった。時間はかかり、かなりの負担を強いられたが、各方面の努力により何とか解決した。

 今回のサブプライム問題に起因する金融危機は米国内だけの問題ではなく、証券化商品を通じて世界全体に波及している。一種の金融バブルが米個人消費を押し上げ、国内総生産(GDP)の7割を超えてしまった。中国やインドなど新興国は米国の個人消費に支えられて輸出を増やしていたため、米国の危機で輸出が大きく減退し、新興国経済そのものも重大な影響を受けた。今や世界中が相当密接にリンクしている。当然、危機後の調整には相当な時間を要し、解決は日本のケースより難しくなるだろう。

 ―米経済は浪費型以前の姿に回帰するか。

 杉山氏 いや、あまりそのようには感じない。同じ失敗を犯さなければ良いのだが…。やはり、ある程度は経済規模を縮小してでも均衡する社会に持っていくべきではないかと思う。ただ、オバマ次期大統領がどう考えているかはよく分からない。今後の政策を注視したい。

 ―昨年9月、米政府が証券大手リーマン・ブラザーズを破綻させてしまい、危機が深刻化したが。

 杉山氏 「なぜリーマンだけが…」と意外に感じたことは事実。米政界には「厳しくやる時はやるべきだ」「何でもかんでも公的資金で救うわけではない」という考え方が浸透しているようだ。それがリーマン問題に出たのであろうか。

 

今秋に米株価反転、3カ月遅れで日本

 ―米経済回復には何が必要か。

 杉山氏 不良債権処理に関しては、日本と同じような道筋をたどるだろう。資本注入だけでは片付かないのではないか。恐らく実体経済が一層悪化するので、不良債権もさらに増えていくと思う。従って、しっかりと資産査定したうえで銀行本体から切り離すとか、日本の整理回収機構などが行ったことを施策に盛り込むのではないか。どのくらい時間がかかるのか判然としないが、これをやらないと問題は解決しないだろう。米国の住宅価格はバブル前と比べるとおおよそ50%膨れ上がったので、それが元の状態、つまりピーク時の約半分ぐらいまで落ち込むかもしれない。資産価格の下落に歯止めが掛かるのは、早くても今秋以降ではないか。

 一般的に株価は先行指標と言われており、資産価格の底打ちに先立ち、米株価は反転するのではないか。実体経済の回復まで至らなくても、株式市場は「底が見える」と分かれば反応する可能性がある。

 

 ―日本の株価の動向は。

 杉山氏 従来、日本の株価は米国に3カ月ほど遅れて反応している。最も早くて米株価の反転が秋頃ならば、来年初め頃に反転する可能性があるのではないか。もっとも、株価のことは良く分からないが…。日本は1~1.5%程度の経済成長を続けてきたとはいえ、米国と中国を主体とする外需主導での経済成長であった。当然、両国がこういう状況では輸出が減るので、「全体として日本経済が弱ってくる」と、外国人投資家は感じ始めているだろう。実際、「日本は欧米と比較すれば相対的に良い」と言われていたのに、自動車や電機などが生産調整を始めた。「株価純資産倍率(PBR)が1を割るのはおかしい」との指摘もあるが、「日本の実体経済も欧米並みにおかしくなる」との見方も出てきているようだ。

―中国経済の先行きをどう見ているか。

 杉山氏 確かに沿海部は非常に厳しい状況と聞くが、あれほどの国民を抱えていることもあり、内陸中心にまだまだ内需拡大の余地が日本以上にあると思う。それに中国の指導部は対応が早い。指導部さえ間違わなければ、中国の政治体制では危機的な状況には陥らないのかもしれない。

 

銀行経営、持ち合い解消で健全化

 ―「ポスト金融危機」の銀行経営はどう変わるか。

 杉山氏 基本的に、金融は実体経済の鏡であり、経済情勢が悪いと銀行の経営環境も厳しくなる。完全に昔に戻ることはないが、欧米をはじめとして今後規制が厳しくなる可能性があり、投資銀行に特化したビジネスモデルは見直しを迫られるであろう。レバレッジを効かせて手数料収入を狙う戦略から、預金に立脚した「銀行」へ回帰する経営を志向する動きが強まるのではないか。邦銀は政策保有株式をこの10年間で約3分の1まで減らしてきたが、想定外の株価下落の影響は小さくない。取引企業としっかり相談していかなければならないが、政策保有株をどう減少させていくかが、中長期的な課題の1つだ。

  ―「貸し渋り」批判にどう答えるか。

 杉山氏 金融機関の公共的な役割への期待を考え、可能な限りの対応を行ってきている。確かに、中小企業向け貸し出しは減少傾向にあったが、中川昭一財務・金融相や金融庁とも色々協議しながら、全国銀行協会では「中小企業向けの円滑な資金供給」について申し合わせした。敢えて業種を挙げるとすると、確かに不動産・建設業の倒産件数は多いようだ。大きな理由の1つに、外資が不動産投資信託(REIT)やファンドを通じて積極的に不動産市場に進出した後、一気に引き揚げてしまったことがある。彼らが日本の不動産市場を相当荒らしてしまった。

 ―昔の邦銀はベンチャー企業を育成する「インキュベーション」に努め、ソニーやホンダを育て上げたが。

 杉山氏 高度経済成長の下、そういった実績が数多くあったことは事実であろう。今は、非常に厳しい環境での経営を強いられる。時価会計を否定するつもりは全くないが、実体経済が悪くなると、資産サイドが傷み、銀行は動きにくくなる。本来は、銀行がインキュベーション事業のようなリスクを取れることが望ましい。今のような現状を変えることが、銀行経営者の使命の1つだとも思う。

 

「銀行過剰」、官民で再編方向性を

 ―ペイオフ(預金の払戻保証額を元本1000万円とその利子までとする措置)解禁から丸4年を迎えるが、いまだ危機感に乏しい金融機関の経営者が少なくない。

杉山全銀協会長

 杉山氏 危機感が乏しいかは別にして、現在の金融機関の数が適切かどうかは真剣に考えるべき時期なのかもしれない。

 ―オーバーバンキング(銀行過剰)の池の中へ、ゆうちょ銀行という「クジラ」が飛び込んできたが。

 杉山氏 従来から、民間銀行はゆうちょ銀は規模を縮小すべきだと主張してきた。民営化はしたが、いまだに政府100%保有の官有である。ゆうちょ銀の肥大化にはきちんと歯止めを掛ける必要がある。利用者の利便性向上のために、ゆうちょ銀と全銀システムの接続を実現した。これは、従来の主張とは別に、利用者の視点に立って行うべきことと考えた。

 ―昨年末、改正金融機能強化法が成立したが。

 杉山氏 実体経済を更に悪くしないよう、円滑な資金供給を維持するためには、国の予防的な資本注入は有効な手段だろう。公的資金は国民の税金だから、金融再編につながる可能性はある。再編のポイントとなる生産性の向上を見つめ直す上で、金融強化法が1つのきっかけになる可能性はあるのではないか。

 ―2009年を読み解くキーワードは何か。

 杉山氏 実体経済そのものは更に厳しい状況が続くだろう。ただ、そんな悪い状態が3~4年も続く事態はなかなか考えにくい。ただし、今回は「100年に1度」の危機と言われていることもあり、世界的になかなか景気浮上の道筋が見えてこない。しかし、人類には知恵があり、世界のいろいろな地域で協調していくなど、様々な試みがなされるであろう。いきなり右肩上がりで経済が回復するという状況を期待することは無理だろうが、最も早まれば、米国の資産価格は秋に下げ止まる状況が出てくるのではないか。今年が「反転攻勢」の発射台になるとよい。