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「経済再生のためにもっと勉強を」
『竹中式マトリクス勉強法』(竹中平蔵著)

2008年10月08日(Wed) 鶴岡 弘之

経済学者の竹中平蔵氏が、自ら実践してきた勉強法を綴った。経済学に関する書籍はあまた書いてきたが、個人のスキルアップに関する本の執筆は初めて。世界経済が激動する中で、日本人は今こそもっと勉強すべきだと唱える。グローバル時代の勉強の極意を竹中氏に聞いた。(聞き手は鶴岡弘之)

──勉強法について本を書かれたのは初めてだとか。この本を書いた狙いについて教えてください。

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竹中 勉強は、始めるまでが大変なんですよね。「勉強しなくてはいけない」という思いはあるんだけど、何を勉強していいか分からないという人は多いのではないでしょうか。そういう人は、自分が今どんな状況に置かれているのか、何をやりたいのかが見えない。だから、何を勉強すべきかが分からない。勉強を始めるためには、意味づけを明確にすることが大切なんですよね。

 私が昔から感じていたのは、勉強には「天井のある勉強」と「天井のない勉強」があるということです。天井のある勉強の典型が受験勉強です。合格すればそれで終わり。一方で、文学的な教養を身につけるとか、コミュニケーション能力を高めるといった勉強もある。そうした勉強には天井がありません。経済の勉強なんてまさにそうだし、社会の勉強もそうですよね。

竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)、竹中平蔵著、950円(税別)

 さらに勉強は、「人生を戦い抜く武器としての勉強」と「人間力を鍛えるための勉強」に分けることもできる。英語を特訓したりMBAに通うのは、ライバルに打ち勝つための武器となる勉強です。一方、ワインの奥義を勉強したり、世界の古典文学を読んだりするのは、人間力を高め、人生を豊かにするための勉強になります。

 そうした勉強の軸をこの本ではマトリックスにして示しました。そうやって勉強の区分をはっきりさせることは、勉強の姿勢を作るうえで極めて重要だと思います。

 自分が勉強法について語るなんて、ちょっと気恥ずかしい部分もあったんです。でも、勉強というのは本来楽しいものですよね。自分が成長していくという喜びがあるし、今まで知らなかったことを知るのはとても楽しいことです。自分なりに試行錯誤してきたことを取りまとめて、いろいろな人に勉強の喜びを味わって欲しいという思いで、この本を書きました。

日本人は経済的な危機感を持つべき

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、大蔵省財政金融研究所主任研究官、ハーバード大学客員准教授、大阪大学経済学部助教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。2002年に金融担当大臣、2004年には郵政民営化担当大臣を兼務。2005年総務大臣。この間、2004年に参議院議員。2006年小泉内閣終焉とともに辞職。現在、慶應義塾大学グローバルセキュリティー研究所教授・所長(経済学博士)
(写真:LiVE ONE)

──日本人に勉強が必要な理由として、国力の低下を挙げています。

竹中 今、日本人に求められていることが大きく2つあります。まず、経済的な危機感を持つことです。日本は経済大国だから大丈夫だなんていまだに思っている人がいるけど、決してそんなことはない。世界に目を転じると、どの国も必死なんです。次から次へといろいろなことが起きて、すさまじいグローバル競争が繰り広げられている。その中で、世界の人たちは必死になっています。日本は安穏としていられないんですよ。

 15年ほど前、日本人の1人あたりの所得は世界で第2位でした。それが今は18位です。先進国30カ国の中だと、もはや下位グループ。そういう状況になっているんです。日本人はもっと危機感を持たなければなりませんよね。

 もう1つは、世界の国が普通にやっていることは日本でもやっていく必要があるということ。例えば私が大臣を務めた小泉内閣は、不良債権処理と郵政民営化を行いました。賛否をめぐって日本で大騒ぎになりましたけど、世界では全然特別なことではありません。郵政民営化をやった先進的な事例はいくつかあるし、不良債権処理にしても不良債権があった国はみんなやっていることです。

 現在の原油高への対応にしても、日本では「政府がいろいろな業界の面倒を見るべきだ」という論調になっていますが、そんな国は他にないですよ。日本で言われていることは、残念ながら世界から遊離しているんです。

 経済的な危機感を持って、やるべきことをやっていく。そうなると、日本人はやはりもっと勉強して、厳しい状況にいかに対処していくかを考えていかなければなりません。

──日本人は勉強が足りないのでしょうか。

竹中 バブル崩壊後の「失われた10年」を見ると、日本の人材はほかの国に比べて明らかに劣化したと言わざるを得ません。英国の教育メディアが行っている有名な世界大学ランキングがあります。2008年度は日本の大学の最高位が東京大学の17位でした。トップ100の中に、日本の大学は東大をはじめ4校しか入っていないんです。そのランキングでは中国の大学も100位以内に4校入っている。日本はすでに中国に追いつかれているんですよ。

 日本の大学は、「18歳から22歳ぐらいまでの若者が楽しい青春時代を過ごす場所」という雰囲気がありますよね。私が米国の大学に行って一番驚かされたのは、大人がたくさんいることでした。米国の大学では、学生、大学院生として登録されている人の中で25歳以上の人が4割、35歳以上の人が17~18%を占めています。日本とは大違いなんです。

 とにかく日本では大人が勉強をしない。何年か前に内閣府が「あなたは仕事以外の時間に、自分を高めるための勉強をしていますか」と社会人に聞く調査を行いました。その時に「勉強している」と答えたのは11人に1人くらいしかいなかったんです。どうも日本では、勉強は子供がするもので、大人は勉強しなくてもいいという風潮があるようです。

 この本は基本的に社会人に向けて書きましたが、本来は学生の勉強と社会人の勉強を分けるべきじゃないんですよ。社会人こそ専門学校や大学などに通って勉強すべきだし、学生にしても社会との接点を大いに持ってもらわないと困る。そういう意味では、両方の人に読んでほしいですね。

金融工学だけでは不十分

──米国の金融破綻が発端となり、世界経済が危機的な状態に陥っています。米国で金融を破綻させたのは、勉強に勉強を重ねた人たちだったのではないでしょうか?

竹中 むしろ勉強が足りないから、ああいうことになったんだと思いますよ。サブプライム問題にしたって、貸し付けそのものが悪いわけではない。土地の値段が上がり続けるはずだから何とかなるだろうという判断が間違っていたわけですよね。

 結局、そういうことを人類は繰り返してきていますよね。かつてベトナム戦争の時に米国で『ベスト&ブライテスト』という本が出版されました。ケネディ政権には、ハーバード大学をはじめとする優秀な大学を出た「最良で最も聡明な人たち」がぞくぞくと集められた。それなのに、米国は泥沼のベトナム戦争に突入していった。その過程を追った衝撃的なノンフィクションでした。それと同じことが今、起きているんじゃないでしょうか。

 ウォール街には「人間力を鍛えるための勉強、人と人をつなぐ勉強」が欠けていたということかもしれません。金融工学は世の中で戦う際の武器となります。でも、それだけではダメなんです。根本的な人の心理とか、社会の営みの仕組みにも目を向けないと。歴史を学べば、物事には必ずアップ&ダウンの局面があることとか、繁栄の後には必ず厳しい時代が来ることなどが分かるはずです。そういう広い意味の勉強が足りなかったんだと思いますよ。

──これからは特にどんな勉強が必要でしょうか?

竹中 米国の金融破綻を受けて、「だから金融はだめなんだ」とか「マネーゲームが行き着いた」という論調があります。でもそんなことを言っても何も解決しません。世の中から金融はなくせないし、それを動かす金融工学の知識も大切です。

(写真:LiVE ONE)

 確かに米国で一部の金融機関が破綻を起こしてしまいましたが、その一方で、それ以上の破綻を食い止めようとしている知もあるわけです。例えば米国政府は、公的資金の入れ方や、入れるタイミングなどをちゃんと勉強していたから、なんとか対応できているんです。

 だから経済に関して言えば、まず、戦う武器としての知を強くしていくことを怠ってはならない。加えて、金融活動をチェックする社会的な仕組みの両方が必要でしょうね。金融工学、心理学、マネジメント、そして社会制御のポリシーなどを総合的に組み合わせて、社会全体を構想する力が本当に求められていると思います。