ホンダの最新型「ASIMO」のデモンストレーションと技術説明を見学してきた。

 本田技術研究所が「マンサイズ」(ミニサイズではない、という意味。この「大きさ」によって難しさが格段に増す。これについては後述しよう)のヒューマノイド(ヒト型)ロボットを開発していることを公表して以来、私はこのプロジェクトにひとかたならぬ興味を抱いて見守ってきたものである。

まずはその中で気付いた、あるいは知ることのできたエピソードをいくつか紹介しておこう。

ASIMOにはなぜ顔がないのか

「最新型」ASIMO。凹凸のある面でも3歩先の運動まで予測して自然な姿で歩くようになり、サッカーボールを蹴ることもできる。手指の作動機構を変え、指先に圧力センサーを備えたことで容器を開けて、飲み物を注ぐといった動作もこなす。最初のモデルの公開から11年が過ぎ、前作からの機能面の進化は個別要素の高性能化に向かっている印象。(写真提供:本田技研工業)

 ASIMOには「顔がない」。これにもちゃんと理由がある。二足歩行の研究からヒューマノイドロボットの実体化へと進むにあたって、当時の開発者たちは自動車のデザイン(スタイリング)開発と同じアプローチで検討と評価を行った。とりわけ、「人々は、いつか自分たちと『共生』することになるロボットに対して、どんな感情を抱き、どんな反応を見せるか」については、実際にいくつかの具体案を制作して一般の人々を集めたグループに提示して反応を見る、スタイリング開発やマーケティング調査の中で「クリニック」と呼ばれるイベントを実施したという(おそらく何度も)。

 そこで明らかになったことの1つが、例えば夜、就寝中にふと目覚めて目の前に人造的な「顔」があった時にパニックを起こしたり、怖がる、不快感を覚える、という人が少なからずいる、ということ。これを「ロボット・ナイトメア・シンドローム」と呼ぶ。つまり、「『ロボットに悪夢を見る』症候群」である。

 幼児になると、マイサイズでマンガ的な顔を持つロボットに面と向かうと泣き出してしまうケースも現実に起こっている。こちらはサーカスの道化師、いわゆるピエロの顔を怖がる、「道化師恐怖症」にも共通する感覚だ。

 逆に人間に近づけた「顔」の場合も、そうした人形が暗闇の中に浮かび上がると「怖い」と思う瞬間があるのは、実際にそうした体験をしたことがなくても理解できるだろう。

 こうしたことが分かったので、ホンダのデザイナーたちはASIMOに「人間を模した顔」を与えるのをやめた。しかし「のっぺらぼう」ではこれまた「怖い」という感情を引き起こすことがある。そこで黒い半透過性のマスクの中にカメラのレンズが2つ並んで見える、という「ASIMOの顔」を創出したのだった。

 このあたりの「ヒトがロボットに抱く感情」をきちんと検証せずに、「可愛い」とか「キャラクターを表現する」などという思いだけで「顔」をデザインしたヒューマノイドロボットは、特に日本では少なくない。