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ウェットな資本主義でいこう
『いいかげんがいい』(鎌田實著)

2008年11月21日(Fri) 鶴岡 弘之

地域医療の最前線で活躍してきた諏訪中央病院名誉院長、鎌田實氏が
最新作『いいかげんがいい』を上梓した。
医師としての見地から、無理をしない、そして頑張りすぎない生き方を提唱する。
なにごとも「ほどほど」「いいかげん」がいいのだという。
だが、今の日本で暮らしていると、なかなかそうした心持ちにはなれない。
なにしろ誰もが明日の生活に不安を抱えて生きているのである。
鎌田氏はそうした状況をふまえ、「いいかげん」な生き方の素晴らしさを唱える一方で、
弱者をないがしろにしてきた日本の政治に警鐘を鳴らす。    (聞き手は鶴岡弘之)

──この本の中で提唱している「ウェットな資本主義」とは。

いいかげんがいい』鎌田實著、集英社、952円(税別)

鎌田 30年ぐらい前から僕は「ウェットな資本主義」を唱えているんです。資本主義の原理は競争主義ですから、放っておくとどんどんドライになっていく。資本主義に暖かな血を通わせないと、最後は行き詰まります。

 日本はこの10年の間、国づくりに失敗したと思います。日本がやってきたのは、一生懸命、米国のモノマネをすることです。でも、米国の資本主義社会を見ると、実は下半身にちゃんと血が通っている。厚みのあるボランティア活動とか、貧しい人を助ける教会のネットワークとか、日本にはないシステムがあります。

 また米国には、成功して富を築いた人が寄付をする伝統もある。僕は4年ほど前からイラクの子供たちを支援するようになったんだけど、俳優のポール・ニューマンの名前をすごくよく聞きました。彼はポール・ニューマン財団を設立して、イラクの白血病の子どもたちを助けていたんです。

 日本は米国の資本主義の上半身しか見てこなかった。だから日本の資本主義には暖かい血が通った土台が決定的に欠けていますよね。本当は土台があるからこそ、上半身で激しい競争を繰り広げられるんだと思う。

──具体的に言うと、小泉政権の構造改革が国づくりの方向性を間違ったと?

鎌田 小泉さんの改革はあまりにも中途半端だったと思います。いろいろな改革を行ったけれど、既得権益も天下りも今だになくならないし、何よりも失敗だったと思うのは、下半身に暖かい血を通わせる政策を怠ったことです。結果的に一握りの勝ち組だけをつくって、分厚い中流を壊してしまった。資本主義を維持するためには分厚い中流が必要なのに、多くの中流が下流に落ちて行きました。

 教育や子育て支援、医療をもっと充実させるべきだったんです。例えば日本の公的教育費はGDP比で3.4%しかない。先進国の中で最下位のクラスです。国として教育に全然お金をかけていないんです。また、子育て支援にかけるお金も日本はGDP比でたったの0.75%。一方、フランスなんかは3%あります。

 この違いが出生率の違いになって表れていますよね。フランスは出生率が2.0を超えているのに、日本は1.31しかない。日本では、結婚しても安心して子供を生んで育てられるような環境じゃないんです。日本の出生率はどんどん下がって、いずれ1を切ると思いますよ。

 都内の病院で起きた「妊婦たらい回し」事件にしても、小泉政権以来の医療費抑制政策がボディーブローのように効いてきた結果です。

国を信用できないから誰もお金を使わない

鎌田 實(かまた・みのる)
1948年、東京都生まれ。74年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県の諏訪中央病院にて地域と一体となった医療や患者の心のケアも含めた医療に携わる。88年、諏訪中央病院院長に就任。2005年より同病院名誉院長。同時に、東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部非常勤教授も務める。著書に『がんばらない』『あきらめない』『いのちの対話』『なげださない』など多数

鎌田 日本人の個人金融資産を合わせると1500兆円にも達するそうです。なぜみんなそのお金を使わないのか。それはこの国を信じていないからです。

 僕は田舎で往診をしているんだけど、今、診ている85歳のおばあさんに「貯金ある?」って聞くと、年金がたまって100万円近くあるって言うんですよ。「お嫁さんに苦労かけてるだろうから、何か買ってあげたらお嫁さん喜ぶぞ」とか「お孫さんを連れて日帰り温泉でも行って、おいしいものでも食べさせてあげたら」って言うと、「老後が心配だからお金を使えない」だって。もう老後そのものなのにね。

 要は、政府が信用できないということですよ。いざという時に、この国は自分を守ってくれないと思っているんですよ。こういうおばあちゃんたちが安心してお金を使い切れるような社会にすれば、もう一度日本の経済は世界ナンバーワンになりますよ。

 だから国は発想を変えるべきなんです。ダムとか道路とか新幹線を作って経済を活性化しようとするんじゃなくて、年を取っても、病気になっても安心してお金を使えるような国にすることです。

バランスが取れている状態、それが「いいかげん」

──医療や福祉を充実させるための財源はどうやって捻出しますか。

鎌田 麻生さんが打ち出した生活定額給付金はまったく意味のないものだと思うけど、消費税を3年後に引き上げると言及したことは、評価しているんです。

 僕は、日本の資本主義の下半身に血を通わせるためには消費税を上げるしか方法はないと思う。欧州では10~20%が当たり前。隣の韓国だって10%でしょ。年金、医療、福祉の立て直しをするためには、日本も消費税を引き上げるしかない。

 こういう国づくりをするために消費税を上げるんだと明確にすることが大事なんだと思います。国のお金を使わないと医療も福祉も良くなりません。政治家が国民に向けて熱いメッセージを出すべきですよ。医療、福祉、介護は万全の国にするから、安心して貯金を使ってくださいと。それが暖かい資本主義なんです。

──今の日本は「いいかげん」になっていないんですね。

鎌田 経済も健康も幸せも、「かげん」が大事だと思うんですよ。米国で金融機関が次々に破綻しましたが、それはかげんを見失って際限なく儲けようと思ったからこういうことになったんでしょう。

 人間の体だって同じことです。交感神経がずっと緊張していると血圧が上がっていくし、心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなる。だから1日に数分でもいいから副交感神経が優位の時間を作るべきなんです。例えば夕日を見て感動したり、おいしいものを食べて幸せな気分になるとかね。そうすると副交感神経が優位になる。血圧が下がって、血管が拡張して、血行も良くなる、リンパ球が増えて免疫力も上がりますよ。

 日本で生きたら必ず交感神経優位になってしまいますからね。だから意識的に副交感神経が優位な時間を作らないと。

 知り合いの経営者の中には、よくそんなストレスの中で仕事をしていられるなと思うような人がいるけど、必ずリラックスする時間を作り、交換神経と副交換神経を上手にコントロールしています。何事もバランスの上に成り立っているんですよ。健康もそうだし、経済だって同じことです。