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日本を取るか、マニフェストを取るか
君主の道を選ぶ時~民主党よお前は何者か(3)

2009年11月19日(Thu) 清水 昇

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日本を取るか、マニフェストを取るか 君主の道を選ぶ時~民主党よお前は何者か(3)
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 鳩山由紀夫政権に内在する危うさを3つのキーワードで検証してきた。一昨日の「対等な日米関係」、昨日の「政治主導」に引き続き、3日目の今日は「マニフェスト」というキーワードから鳩山政権の危うさを解き明かしてみたい。

新聞各紙が「公約にとらわれるな」の大合唱

民主党、衆院選マニフェストを発表

民主党のマニフェストを発表した時の鳩山由紀夫総裁〔AFPBB News

 総選挙の最中に2回にわたり「これでいいのか、マニフェスト選挙」で、マニフェスト原理主義への警鐘を鳴らしたところ、筆者の予想に反して新聞報道各社の社説もこぞって民主党に「公約にとらわれるな」と注文をつけた。

 口火を切ったのは朝日新聞である。衆院選開票翌日の8月31日朝刊で「政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変の勇気をもつことだ」として、具体的な施策では、高速道路の無料化を見直せと主張した。

 同じ日に産経新聞も「マニフェストで掲げた政策の修正を伴うケースも出てこようが、1億2000万人の日本人の繁栄と安全を守り抜くことをなによりも優先させるべきだ」とした。具体的には安全保障関係の公約にこだわるな、という主張だ。

 翌日の9月1日朝刊では、読売新聞が「政権公約のうち、直ちに実施すべき政策と、時間をかけて練り直すべき政策」の整理を求め、外交・安保関係に加え、温室効果ガス削減目標の見直しを求めた。

公約を実行するなと迫った日本経済新聞社

 極めつきは、2日の日本経済新聞社説である。「対米政策で『君子豹変』せよ」という見出しで、インド洋給油活動の終了、在日米軍再編見直し、日米地位協定の見直しについての公約は実行に移すなと主張した。

 日本経済新聞の社説にこうある。

 「現実路線に転換するのは、有権者に対する裏切りではない。逆に野党時代の方針を惰性のまま続け・・・(ること)は、政権党として無責任になる」

 毎日新聞だけが4日朝刊の社説で「国民との約束は重い」という見出しで他社の対応を批判したが、朝日・読売・日経・産経がそろって公約に縛られるなと主張するのは極めて珍しい現象である。

 「これでいいのか、マニフェスト選挙(上)(下)」でも書いたが、消費税導入までの経緯を思い出してみるとよい。大平正芳内閣が一般消費税を掲げ、直後の衆院選(1979年)で敗北した結果、それ以降の内閣は毎回、野党やマスメディアから「一般消費税を導入するのか、しないのか」を答えさせられた。

社会保障費削減を変更できず苦しみ続けた自民党

世界料理サミット、都内で開幕 一流シェフが自慢の腕を披露

小泉純一郎元首相時代に決めた社会保障費の削減を変更するのに自民党は塗炭の苦しみを味わった〔AFPBB News

 その結果、中曽根康弘内閣は売上税を導入しようとしても実現できず、竹下登内閣がようやく消費税を導入した際も、批判の枢要な部分は「導入しないと言っていたのに、公約を破った」というものだった。

 新しい例で言えば、小泉純一郎内閣が2006年に決めた社会保障費2200億円を毎年削減する方針を変更することに、自民党がどれだけ苦労したか。

 「小泉改革の後退」と言われることを恐れて安倍晋三、福田康夫両内閣は軌道修正できず、麻生太郎内閣も、世界同時不況があって初めて方針転換できた。

 それほど、時の政権は公約違反を批判されることを嫌って、政策の機動性が縛られるのがこれまでの常だった。

 鳩山政権にはそういう制約が一切ないのだ。公約通り実施してもよし、公約を修正しても、マスメディアにはむしろ評価される。これほど政権運営が容易な環境はないだろう。ところが、である。民主党政権自体が、マニフェストに驚くほどこだわってしまっているのである。

ガソリンの暫定税率を廃止は何のため?

 一例を挙げよう。暫定税率の廃止は、民主党が2007年の参院選で掲げ、選挙の結果、参院の多数を制したことで、一時的に暫定税率が失効したことは記憶に新しい。ガソリン代が下がれば、それだけ消費が刺激され、景気対策にもなるというのが民主党の主張だった。

 しかし、暫定税率を廃止すれば、2.5兆円という貴重な財源を失うことになる。ただでさえマニフェストで掲げた「子ども手当」などの新規施策の財源を捻出するのが容易でない中で、2.5兆円をみすみす失うのは惜しい。

 他方、民主党はマニフェストで、地球環境対策の観点から化石燃料を使うものに課税する、いわゆる炭素税の導入を掲げている。そこで、環境省は来年度税制改正で地球温暖化税の創設を打ち出した。暫定税率分をそのまま地球温暖化税という名称に衣替えする形だ。

 どちらもマニフェストに書いてあるとはいえ、前者の暫定税率廃止は景気刺激効果を理由に挙げている以上、すんなりと衣替えするのは「マニフェスト違反」と言われる余地がある。そこで、今、政権内で浮上しているのが、来年4月から暫定税率を廃止し、温暖化税の創設は半年程度後ろにずらす、という案だ。

選挙対策のための朝三暮四か?

暫定税率復活でガソリン値上げ、GSは閑散

再びガソリン税の減税と増税が繰り返される?〔AFPBB News

 理屈は以上のようなものだが、実際は、参院選の前にガソリン税を安くして、参院選後に温暖化税と衣替えして値上げする、という選挙対策の意味合いがあるのは明らかだ。

 この案を耳にした時、最初に思い浮かべたのは「朝三暮四」のことわざだった。何と国民を馬鹿にしているのだろう。

 それはともかく、なぜ、これほどマニフェストの文言にこだわるのだろうと考え、筆者が思い当たったのは、もしかしたら「見栄」がそうさせているのではないか、ということである。

 日常生活でもよく見かける現象だが、人間は自分が一度言い出すと、それを撤回したり、軌道修正したりすることは「みっともないから」という理由で避けようとする。プライドの高い人に特にその傾向は見受けられる。民主党のマニフェストへのこだわりは、そのような見栄が根っこにあるのではないか。

 しかし、それは「君子豹変」と真逆の対応だ。

 「君子豹変」には、対となる故事成語がある。「小人革面」(しょうじんおもてをあらたむ)である。君子のような立派な人物は、自分が誤っていると分かれば、鮮やかに転換する。それに対して、つまらぬ人間の場合は表面を取り繕うだけだ、という意味である。

マニフェストの表面を取り繕うのは小人の証し?

 新聞各紙が「君子豹変せよ」と促しているのに、民主党政権自体が、マニフェストの表面を取り繕うことに汲汲としている。そのような「小人」の発想が、マニフェスト原理主義とも言われる行動パターンを生み出しているのだとしたら、これからもずっと続くことを覚悟しなければいけなくなる。

 マニフェストは4年間の国民との契約だと言っているし、次の総選挙の際に新しいマニフェストを作成する時にはきっと今まで自分たちが主張してきたこととの整合性にこだわるだろう。まさに「面を革む」作業をずっと繰り返す危険を民主党政権ははらんでいる。

 「対等な日米関係」も、「政治主導」も、「マニフェスト」も、民主党のレーゾンデートル(存在意義)に深くかかわるものだけに、これからもこだわり続ける可能性が高い。その時、その影響はどの程度のインパクトがあるのか。この国の行く末はどうなるのか。

 残念ながら、筆者の想像力を超えている。今は、鳩山民主党政権が日米関係の混乱を一刻も早く収拾し、政治主導やマニフェストという建前にとらわれるのではなく、現実の政治の要請に即して対処する柔軟さを持った政権に生まれ変わってくれることをひたすら祈るばかりである。

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