原発の是非について判断を下すのは誰か。答えはもちろん、この国の主権者たる「国民」のはずだ。しかし、現実には原発立地自治体の市町村長や知事にその権限が限定されているのが現状である。そこに法的根拠は、ない。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、放射能被害が、想定された範囲を大きく超えることを証明しているが、これまで立地自治体以外の住民の声は原子力行政に生かされることがなかった。

 国内の原発は54基。営業運転を続けているのは15基である(本稿掲載時には調整運転中だった北海道泊原発3号機が営業運転を開始する見込みで、そうなれば16基となる)。定期点検のために運転休止中の多くの原発については、ストレステスト後に再稼働の判断が求められることになる。

 判断を下すのは、これまで通り立地自治体の首長らだが、原発を取り巻く地域ごとの事情を探っていくと、原発マネーで地域ごと買収するという「国策」の実相や、歪んだ地方政治の実態が見えてくる。

 電源三法交付金の恩恵を独占する首長一族、選挙における票や公約実現への協力で政治家を支える電力会社、そして電力会社の仕事で飯を食う企業による原発推進運動・・・。

 九州電力は、玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)と川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の2つを擁しているが、背景を追って取材を重ねるほどに、報じられることのなかった原発立地自治体の姿が鮮明となった。

 福島第一原発の事故を経験したこの国で、原発の是非を「原発マネー」で潤ってきた地域の判断だけに委ねるのは間違いではないか。その疑問に答える一連の取材結果を2回にわたって掲載する。前半では玄海原子力発電所、後半では川内原子力発電所に焦点を当てる。

「佐賀県一の貧乏地域」を変えた電源三法交付金

 佐賀県東松浦郡玄海町は人口約6500人。西側は玄界灘に臨み、北東側が唐津市に接する風光明媚な町である。町制に移行したのは1956(昭和31)年で、旧値賀村・旧有浦村の合併によって現在の町が形成された。