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埋蔵金、一体いくらだったの?

2008年11月05日(Wed) 山田 生輝

 「埋蔵金」騒動が決着したようだ。10月30日に政府・与党がとりまとめた国費5兆円、事業費26.9兆円に上る経済対策の「生活対策」で、財源として「財政投融資特別会計の金利変動準備金の活用等を行う」と明記されたからだ。

財務省に「埋蔵金」はある?ない?

 財政投融資特別会計の資産・負債差額は、2006年度末で17.7兆円。10月27日に開催された財政制度等審議会財政構造改革部会に提出された資料によれば、この17.7兆円は金利変動準備金であり、「各年度の利益を将来の金利変動による損失に備え積み立てているもの」のはず。しかし、この部会終了後に記者会見に臨んだ西室泰三・財政審会長(東証会長)は「異常事態対応のためには、一時的には従来の基本線から外れてもやむを得ない」と述べ、「埋蔵金発掘」にあっさり同意してしまった。

〔? 17.7兆円の金利変動準備金を、景気対策に使ってしまっても大丈夫なのか。
 財務官僚の「ガメ得」なカネを国民が取り返す正義の行いなのか。
 昨年11月21日に自民党財政改革研究会が発表した「中間とりまとめ」では、特別会計の積立金などは「将来の給付等に積み立てているなど、各々に目的や理由が存在する」ため、「『埋蔵金』といったものはない」のではなかったのか。

実は「怪しい」埋蔵金の根拠

 財政投融資特別会計に「埋蔵金」がある根拠を、「埋蔵金存在派」は財政融資の金利リスクが極めて小さいからだと説明する。

 「埋蔵金男」として一躍有名になった東洋大学・高橋洋一教授(元財務官僚)の著書『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)をひもといてみよう。「財政融資資金は、金利変動に対して適切なALM(資産負債総合管理)を行っており、本来であれば金利変動準備金は極めて少額ですむはず」と述べておられる。そして、高橋教授は2005年4月27日の経済財政諮問会議に民間議員が提出した「特別会計の改革」と題するペーパー及び付属資料を引用し、同特会の資産負債差額は53兆円で、その現在価値は23兆円だとしている。

 なんだか、23兆円の埋蔵金がまるまる経済対策に使ってしまえそうだが、実はそうではない。

 これは財政投融資特別会計を1つの「巨大銀行」と観念すれば理解が早い。この特会は財投債という国債で資金調達した財政投融資資金を、住宅支援機構や地方自治体に貸し付けている。お国の機関に貸すのだから信用リスクはないとしても、住宅や地方自治体には20~30年の長い期間貸す。一方、調達側の国債は10年債が主力だから、調達期間は短く、運用期間は長い。金融機関の重要な機能の1つは、借り入れ資金の「長短変換機能」だから、この長短差自体は驚くべきことではない。しかし、金利上昇局面では調達金利が運用金利に比べて高くなり、大きな金利リスクにさらされることになる。

 

 高橋教授の言うように、カギを握るのは、財政投融資特別会計が金利負担分も含めて、調達と運用の期間を同じにし、金利リスクから自由な状態にしておけるかどうか。すなわちALMができていて、資産・負債のデュレーションが一致しているかどうか、であろう。

 しかし実際には、資産・負債のデュレーションは一致していない。具体的データが開示されていないのではっきりとは分からないが、2003年7月30日に開催された財政審の財政投融資分科会で、「運用のデュレーションは9年半ば、新規の調達は6.7年」との試算が事務方から示されている。さらにこの分科会では、ある大学教授が「(財投の)残高400兆円で17兆円(の剰余金等)というと、デュレーションギャップが4年あって、4%金利が動いても大丈夫ぐらい(の規模)」と述べている。

 ということは、4%金利が上昇すれば、この「埋蔵金」は消し飛んでしまうのではないか。

 高橋教授が「20兆円埋蔵金」の存在根拠にしていた前述の経済財政諮問会議・民間議員提出資料では、2002年度に財務省理財局の財政投融資に関する「政策コスト分析」リポートを金利の前提としていた。この中では、10年物国債の金利は足元で1.3%、2014年度2.5%、2024年度2.8%、2034年度3.3%を前提している。「埋蔵金」試算は、将来も現在のような低金利が続くとした場合の、現在の「含み益」にしか過ぎない。

高金利時代はもう来ないのか?

 将来、金利が昭和60年代のような高金利時代に戻ったらどうなるのか。「埋蔵金」どころか、大赤字になるのではないか。そのとき、一般会計は財政投融資特別会計に補填してくれるのか。銀行だったら、貸出金利を上げて利ざやを稼ぐとか、自己資本にシワを寄せるとか、いろいろ方法がありそうなものだが、財政投融資資金は「調達金利=貸出金利」で利ざやなし。

 過去の高金利から低金利時代への移行期に、比較的期間の短い調達金利はいち早く低下し、比較的期間の長い貸出金利はゆっくりと低下した。積立金などは、「長短時間差攻撃」でたまたま溜まったおカネなのだ。この先に高金利時代へ戻るとすれば、その逆が起こる可能性は高いだろう。

 財政投融資特別会計の資産は2007年度末で245兆円にまで縮小しているが、金利変動準備金はどのくらいが適正なのか、その規模は誰からも示されていない。この金利リスクに加え、日銀ワーキングペーパー「財政投融資の現状と課題」(2001年1月)は、金利上昇局面では住宅ローン借入者の繰り上げ償還が相次ぎ、それが住宅系の財投機関の財務に悪影響を及ぼす可能性を指摘している。これらの財投機関が財政投融資特別会計に繰り上げ償還を求めてきたらどうなるのか。同特会は高金利時代の貸し付け資産という「虎の子」を次々と失うはずだ。

ゴールドラッシュの後に何が残る?

 議論すべき問題は「埋蔵金」があるかないか、ではない。資産規模250兆円の財政投融資特別会計が抱える金利リスクと繰り上げ償還リスクに照らして、金利変動準備金をはじめとする繰越金はいくらが適切か、という問題である。それを誰も語らないのはなぜなのだろう。

「埋蔵金」と言えば、米国カリフォルニアで19世紀半ばに起きたゴールドラッシュを思い出す。1848年に川から砂金が採れたことが報告され、翌1849年には「フォーティーナイナーズ」と後に呼ばれる一攫千金目当ての男たちがカリフォルニアに殺到した。しかし彼らのほとんどは金を見つけられなかったという。

 後に残ったのは、カリフォルニアの人口集中による発展と、金の採掘用に工夫されたリーバイスのジーンズだった。今回の「埋蔵金」騒ぎでは何が後世に残るのだろう。いや、何か残るとよいのだが。