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テクノロジー
2019.01.25

勢いはここまで? 暗雲が漂い始めた自動運転の未来
IoT時代、<自動運転の未来予想図>が変わる

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CES 2019のIBMのブースで見かけた「自動運転の開発をやめるべき」というタイトルの講演(筆者撮影)

【前回の記事】CESで体験したカスタマーエクスペリエンスの近未来
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55229

 CES 2019でラスベガスに滞在中、ストリップ大通りやメイン会場のラスベガス・コンベンションセンター周辺で何度も「目撃」することになったのは、真紅のアルミホイールが印象的なBMWである。

 ダッシュボードに輝くパープルのLyft(以下:リフト)のイルミネーション、ボディサイドに大きく描かれたAPTIV(以下:アプティブ)のロゴ、シルバーに輝くキドニーグリルの組み合わせがその目印だ。

【参考】Aptiv/Lyft Vehicles in Las Vegas
https://www.youtube.com/watch?v=3pPgB5CuzGs


 そう、米ライドシェア大手のリフトは自動運転プラットフォームを協働開発する英アプティブ(GMからスピンアウトした旧デルファイ)と組み、昨年のCES2018で8台のBMW 5シリーズを使って自動運転タクシーの実証実験を行い、ショーの期間中、約500組の乗客を運ぶという実績を残した。

 その後、昨年5月からリフトのこの自動運転タクシーはラスベガスで正式プログラムに「昇格」し、リフト社のブログで公表されている調査結果によると、以来、CES2019の期間中までのべ約3万組の乗客を運び、満足度評価は5点満点中の4.95点、10人に9人がまた乗りたいと回答し、最高で14回も利用した乗客もいたという。

【参考】Aptivとの自動運転サービスに関するリフト(Lyft)社のブログ
https://blog.lyft.com/posts/2019/1/12/thats-a-wrap-ces-2019

 事情通の読者なら、アプティブが開発している自動運転プラットフォームにはエヌビディアのGPU・Xavier(エグゼヴィア)もしくは最新のPEGASUS(ペガサス)が使われていること、BMWのボディに数カ所取り付けられている自動運転用の目の役割を担うセンサーLiDAR(以下:ライダー)が「駈けぬける歓び」で名高いプレミアムカーの美しいフォルムを毀損しないよう、超小型に設計・取り付けられていることなどを挙げることができるかもしれない。

 リフト会員ではない筆者は前回、今回ともこの自動運転タクシーに乗車する機会に恵まれなかったが、幸い、リフト会員でリフトからのオファーメールに応える形でマッカラン空港から宿泊先のホテルまでこのサービスを利用したという、米国在住の業界紙の記者の方に体験談を聞くことができた。それによると、

運転席にオペレーター(万が一の時にはハンドルやブレーキを操作できるようにスタンバイしている)、助手席には乗客の質問に対応する説明員が乗車。
万が一事故が起きても一切の補償はしないという趣旨の誓約書にサインをさせられた後、粛々と自動運転はスタート。車内での撮影は不可(外観はOK)。
ドライビングのクオリティに関しては、非常に快適。若干、先行車と車間距離を開けすぎかな、という印象を持った。
渋滞にも巻き込まれることなく、10分ほどのドライブでホテルに到着。
ホテルの敷地内は人間が運転しなければならない取り決めになっているようで、自動運転から手動運転に切り替わる瞬間にいささかの違和感。

 今年のCES 2019の期間中は普段よりも台数を増量、30台もの自動運転タクシーが稼働していたようだ。

 リフトやアプティブにとっても、世界中から目の肥えた顧客が集まるCESの期間を、示唆に富んだフィードバックを獲得する千載一遇のチャンスと考えているに違いない。

自動運転の風雲児・エヌビディアを襲った「不幸の連鎖」

 リフト・アプティブの自動運転タクシーの出現率の高さに高揚感はあったものの、今年は自動運転に限って言えば、やや盛り上がりを欠いたものになるであろうことは実は半分、予想していた。

 なぜならば、CES 2017/2018と自動運転技術のモーメンタム(勢い感)を牽引してきた企業・エヌビディアがこのところ相次ぐ「不幸の連鎖」に襲われていることを、昨今のニュースで察知していたからである。

 今を思えば、筆者が『IoT Today』でエヌビディアに関する直近の記事を執筆していた2018年10月初旬が、エヌビディアの絶頂期だった。

【参考】なぜ農業? 自動運転の異端児エヌビディアの妙計
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54393

「好事魔多し」。2018年10月以降、エヌビディアを突然襲った不幸の連鎖とは、

(1)米ハイテク株が長期金利上昇の動きを受けて一斉に暴落。
(2)米中貿易摩擦と地政学的リスクの問題(中国への情報機密漏えい疑惑)が勃発
(3)仮想通貨(暗号通貨)価格クラッシュとGPUのマイニング(採掘)需要の落ち込み
(4)GAFAがGPU開発を加速させ、競合環境が熾烈になるという観測
(5)第4位の大株主ソフトバンク(ビジョンファンド)が保有株売却を図るという報道

である。

 結果、エヌビディアの株価・時価総額はピーク時の約半分にまで落ち込み、2019年1月下旬現在、回復の兆しが見られない。

(2)と(3)については中国関連であり、エヌビディアの2018年の売上97億ドルの約20%は中国であることを考慮すると、エヌビディアにとっては中国案件が相当なハードパンチになったことは想像に難くない。

 質実剛健・堅実経営を旨とするジェンスン・ファンCEO率いるエヌビディアであるが、さすがに今回のCESではブースの展示もミニマム、過去2年の威勢の良さに比べれば記者会見も地味だった。

 要は「死んだふり」を決め込んだのである。

 エヌビディアとは無関係だが、2018年は5月にアリゾナ州テンピで起きたウーバーの自動運転車による死亡事故を皮切りに、昨年は自動運転とその周辺でネガティブな事案が続出した。

 技術的な課題としても、自動運転の目となる「ライダー」が雪や霧に弱いという弱点が顕在化してきた。

 また、そもそも全米を網羅する完璧な地図がないという事実が今更ながら共通認識になった(例えば、ホテルの敷地内は私有地で地図がないので自動運転ができない。ウェイモのアリゾナでの自動運転タクシーも決められた10km四方のみ)。

 リーン・スタートによる実証実験が進むにつれ、完全自動運転への道のりが平坦でないことを人々に再認識させている、というのが米国の現状だ。

スマートシティを前提にした「共創型の社会イノベーション」

 このような状況の中、自動運転に関しては筆者の悪い予感が的中し、過去体験したような興奮を実感できなかったことは事実である。

 昨年、記者会見で豊田章男社長がサプライズ登壇し、自動車製造業から「モビリティカンパニー」へ「なりわい」変革を力強く宣言したトヨタも、今回は出展を見送った。

 開催1日前に行われたトヨタの人工知能先端研究・商品開発研究所 TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)の記者会見でお披露目された2つの自動運転モード、「シーファーモード」(通常の自動運転)と「ガーディアンモード」(高度安全運転支援)も、大きな話題を獲得するには至らなかったようだ。

 このような状況の中、トヨタが昨年、時間単位のライドシェアサービスを提供することを前提に、都市のモビリティの課題解決に貢献するという切り口で大きな「爪痕」を残した「e-palette」については、そのコンセプトをお手本にしたモノスペースのEV(電気自動車のコンセプト展示)が各社から出されていたことが目を引いた。

各社から出展されたモノスペース・EVのコンセプトカー(筆者撮影)。コンチネンタルやボッシュは自動車製造ではサプライヤーだが、自動運転ではプラットフォーマーのポジションを狙っていることに注意。

 都市モビリティの将来ビジョンについては、昨年CES 2018でフォードのジム・ハケットCEOによって提唱され、CES 2019でもフォードのブースでフィーチャーされていた 「TMC」(Transportation Mobility Cloud)のようなユニバーサルでオープンなAIモビリティクラウド構想が参考になる。

 自動車や人の動きだけでなく、それらを制御する信号機、表示板、監視カメラなどのありとあらゆる「データ」が統合され、都市という大きな単位でモビリティの「全体最適」が図られるという考え方だ。

 つまり、クルマの所有を前提にしない、自動車ビジネスの近未来は「スマートシティを前提にした共創型の社会イノベーション」であることが再確認できる。

 それはより具体的に言うと、

自動車会社は「モビリティサービスのプラットフォーマー」へ
行政(AIクラウド)や専門プレイヤー(リアルやECの店舗、ロジスティックス企業)と共創してサービス構築
モビリティを時間単位で使用する、B to B to C のサブスクリプション型モデルがビジネスモデルの基本
移動に限定されない、マルチなお客さまニーズに対応
ソーシャルの課題解決(地域の分断解消・社会的弱者の救済など)にも目配り

 ビッグコンセプトではあるが、CES 2019では実現に向けたロードマップは描かれていない。

 また、データ時代には不可避の課題である「情報セキュリティ」をどうクリアするか、ということに関しても、依然先送りされたままで、CES 2018から状況に大きな進展は見られないのが現実だ。

「レジリエント・テクノロジー」という新コンセプト

 自動運転関連で今回、唯一、尖度と鮮度ある提案と感じたのが「レジリエント」(Resilient:復元力のある)テクノロジーだ。

 端的に言えば、火災や地震など甚大な災害が起きた際に、消火活動や救援活動を支援する車両を自動運転化することである。

 ホンダの自動運転ワークビークルの動画に注目してほしい。

【参考】HONDA Autonomous Work Vehicle: Wildland Firefighting Use Case
https://www.youtube.com/watch?v=qMkxja8wJrQ

 2018年11月、カリフォルニア州で山火事が発生、約2週間で東京23区に相当する面積が消失し、一時約250人が安否不明になった。

 その際、消火活動のための重い資材を自動で運搬し、消防士の作業の軽減と安全性の確保に貢献したのがホンダの自動運転ワークビークルなのだ。

 あくまでもコンセプトレベルであるが、韓国勢のヒュンダイも災害時の救援活動にフォーカスした、レジリエントな自動運転車の将来像を提示していた。

 ガレキの山のような難路を走破するため、昆虫の足のように動くタイヤがユニークだ。

【参考】HYUNDAI ELEVATE Walking Car Concept
https://www.youtube.com/watch?v=SZvQtlh6ueM


 自動運転というカテゴリー全体から見れば、レジリエントなワークビークルというコンセプトはサブカテゴリーにすぎないかもしれない。

 しかし、レジリエントなワークビークルは喫緊のソーシャル課題解決に期待が高い分、着実にユースケースを積み上げており、「実用化への加速度」は冒頭で紹介した自動運転タクシーよりも速いかもしれない。

 いつの時代も「革命は辺境から始まる」のである。

 自動運転はエヌビディアのジェンスン・ファンが華々しく登場したCES 2017から3年目を迎えて、まさに「踊り場」を迎えている。

 次回(3回目)は、CES 2019の「生活に溶け込むAI/IoT技術」というテーマに切り込んでみたいと思う。

(続く)

JBPRESS

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