こんにちは。野村将揮と申します。昨年10月まで経済産業省でヘルスケア産業振興などに携わり、現在は医療AIベンチャーで役員を務めております。

 思い返せば官僚時代は、先輩方から「我々は、その業界に何十年と身を置いていらっしゃる経営者や大学教授と議論することが求められる。膨大な量の資料を読み込み、関連法制、技術開発の動向、世界市場のトレンドなどを掴まないと、二度と会ってもらえない。死ぬ気で勉強しろ」と教えられ、本当に毎日、インプットの日々でした。

 また、僕自身は国家公務員試験に臨む際にも、「いかに効率的に勉強・インプットするか」を徹底的に考え、結果的には経済学を全く勉強したことがない状態から独習4週間(一次試験3週間、二次試験1週間)で合格することができました。そして、ここで身につけたインプットの技法は、経産省で働く上でも大いに役立ちました。

 そこで、年も明けて受験シーズンが本格化してきた今、僭越ですが、私自身の「インプットの技法」を紹介させてもらえたらと思います。受験生や保護者の方はもちろん、国家試験や留学準備に励まれている社会人の方にも参考になれば幸いです。

インプットの技法

「インプットの技法」などと言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、実は意識付けで効果を実感できる「小さなコツ」です。

 具体的にはまず次の2つが挙げられます。

(1)目的の定義:「何のためのインプットか」をはっきりさせる
(2)反復と継続:脳に覚えさせるために段階を分ける

 まずは、(1)「目的の定義」から説明させてもらいます。

 多くの人はインプットに着手する際、最初に「どの程度の期間・労力をかけて、どれくらいの量の情報を頭に入れる必要があるのか」から考え始めると思います。実はこれは、目的がズレてしまっているのです。

 正しい「目的の定義」とは、「自分(ないしチーム)が何をできる(決められる)状態を作る必要があるのか」を具体的に定めるということです。

 一例として、僕の国家公務員試験の例を挙げてみます。

インプットは記憶力の勝負ではない

 前者の「どの程度の期間・労力をかけて、どれくらいの量の情報を頭に入れる必要があるのか」から考えた場合、「3週間で、約300ページの経済学関連の参考書20冊程度を頭に入れる必要がある」といった設定になります。そこで、とりあえず参考書を開き始めることになるでしょう。

 一方、後者の「自分(ないしチーム)が何をできる(決められる)状態を作る必要があるのか」を具体的に考えた場合、まずは「出題される経済学の問題40問のうち30問に回答できるような状態を、試験当日までに作る」という設定になります。さらに具体化していくためには、下記のようなポイントを考えていきます。

・出題傾向(「統計はベイズ推定が出やすく、正答するだけなら公式の暗記で対応可」など)
・自分の思考の癖との親和性(「代数はかなり得意」「幾何はそもそも題意が掴みにくい」など)
・自分の関心(「経済思想や国際経済は楽しく学べる」「他方で無機質な暗記は辛い」など)

 これらを踏まえた上で、目的の達成のために労力配分とインプット素材(参考書等)を考えることになります。前者と後者とでは、求める結果に近づく効率がまるっきり違ってきます。

 資格試験から語学習得、受験勉強でも全く同様です。たとえば英語の勉強でも、「TOEICで900点を取る」「面接で自分の経験や職能を印象付ける」「旅行先で不自由なく話す」は全て異なる目標なので、それぞれで使うべき教材(参考書の内容や単語帳の難易度)、サービス(英会話スクールひとつ取っても、即応力、表現、発音、抽象的な議題の取扱い、論理的議論の運営など、通うべき先やかけるべき労力が異なってきます)などが大きく異なってきます。

 強調したいのは、「インプットは記憶力の勝負ではない」ということです。目的(到達したい状態)をきちんと定義して、そこに向けて目的合理的にプロセスを考えることこそが重要なのです。

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 続いて(2)「反復と継続」です。

 僕は実体験上、「人間の脳は、どれだけ気合を入れて机に向かっても、記憶力自体が上がることはない」と感じています。「一日中、勉強に集中できる部屋にずっと籠って300ページの書籍を丸暗記する」といった勉強法は、相当効率が低いばかりか、むしろストレスが溜まり、脳が疲れて翌日以降の勉強に響くだけだと思います。

 ここでオススメしたいのは、インプットを複数の段階に分ける方法です。

①「見覚えがある」という状態を作る
②「視覚情報のインプット」を何度も繰り返す
③「思い出す」訓練と「意味付け」

 順番に見ていきたいと思います。

「見覚えがある」という状態を作る

 これは、教科書などを流し読みすることで、用語や単語を「視覚情報」として脳に入れる、といったイメージです。たとえば、”veneration”という英単語があります。これを記憶するのに、恐らく大半の人は「”veneration”は尊敬という意味だ」といった覚え方をするのではないでしょうか。英単語を100語覚えるときには、同様のことを100回繰り返し、一つひとつ脳に刻み込んでいくのだと思います

 しかしながら、僕自身はそういった方法は取らないようにしています。まずは「見覚えがある」という状態を作るために、単語の意味などは一切考えず、「よくわからないけど、こういう文字列があるのか」くらいの感じにとどめ、パラパラとページをめくって数多くの単語を視覚情報として捉えるようにしています。

 ただし、英単語の暗記の場合は、必ず単語のすぐ近くに日本語の意味が書いてある教材を選びましょう。まずは視覚情報として脳に焼き付けるわけですから、日本語と英語、両方を一度に視覚情報として捉えられるものを使うことが効率的です。

 また、基本的に単語帳や参考書の類は「書いてあることの6〜7割は知っている」といったレベルのものを選ぶことをオススメします。知らない言葉ばかりの単語帳や難解な参考書を手にして開くのは結構辛いものです。そのときに、「まぁ大体は知っているけど、復習も兼ねつつ、少しだけ新しい知識も広げておこうか」くらいの心持ちで臨める参考書の方が明らかに暗記は捗ります。背伸びをして自分のレベルを遥かに超える教材に手を出すようなことはしないほうがよいと思います。

 単語や図形、数式に意味合いを付与しながら記憶することができればそれに越したことはないのですが、短時間でそれを実現するのは相当難しい芸当です。そもそも短期間に大量の情報を脳に詰め込もうとすると、脳がパンクしてしまいます(パンクしなくても相当に疲弊します)。

 そこで、一見遠回りに見えますが、まずは「視覚情報」として脳の片隅に入れてしまい、追って意味合いを付与していくのです。その方が、1日あたりこなせる数も飛躍的に増え、結果的に効率が良くなります(この場合、たとえば英単語帳であれば、1日あたり1000語×2〜3回反復を合計2時間程度で行います)。

「視覚情報のインプット」を何度も繰り返す

 続いて取り組むことは、②「視覚情報のインプット」を繰り返すこと、つまり、「見覚えがある」状態を作った作業を繰り返すことです。

 先ほど、「1日あたり2〜3回反復を行う」と書きましたが、これを1セットとすると、2日間で計2回セット、さらに1週間後にもう1〜2セット行うイメージです。

 日曜に初見1000語の英単語の流し読みを2〜3回した場合、月曜にもう一度それらの1000語を2〜3回流し読み、数日あけて土曜にもう1〜2回同様のことをやってみる。そして日曜には新たな1000語に突入する、といったイメージです(ちなみに、このタイミングで最初の1000語については次の段階に突入していきます)。

 基本的にインプットは辛くて疲れるので、土日に数時間で軽く頭に焼き付ける作業を行うのがよいでしょう。その上で、平日は、通勤通学の電車内や休憩時間に「あー、なんか見え覚えあるな、これ」と思い返しながらチェック作業を繰り返していきます。この方法は英単語のみならず、基本的な数式でも世界史などのテキストでも有用です。

 余談ですが、「誰かに要点や感じたことを話せる状態をつくる」ことを想定した読書(面接試験などに必要になるトレーニングでもあります)についても、1~2時間でサーっと通読し、心に留まった箇所に蛍光ペンで着色しておき(ボールペンで傍線を引くよりも明らかによいと思います)、その着色部を数日間に及んで再読する(50箇所でも15分で一通りチェックを済ませるイメージ)、といった手法が、インプット・自分の頭作りに非常に有用だと感じています。

「思い出す」訓練と「意味付け」

「見覚えがある」状態を作り、さらに流し読みを重ねてきたら、いよいよ③の最終段階です。

 流し読みとは言え、一応は1週間で10回程度は視界に入れているはずなので、あとは英単語であれば日本語訳を、読書であれば着色した部分を、きちんと思い出せるかを一つひとつ確認していきます。これはたとえば日本語の意味が書かれた部分を隠したり、着色した部分を自分の言葉でメモに書いてみたり、といった泥臭い作業になります。

 1回目の「思い出す」訓練では、おそらくほとんど思い出せないと思いますが、3回目ぐらいになれば、6~7割は思い出せる、つまり「意外にできている」段階になる人が多いのではないかと思います。

 残り3〜4割のうち大半は、もう少し繰り返していくうちに覚えられます(したがって、この3〜4割はきちんと分かるように印をつけておく)。

 最終的には1割程度、「なぜかめちゃくちゃ覚えづらい」ものが残ることが多いのですが、これは印を付けるだけでは覚えられないかもしれないので、別途リストにまとめるなどして、暇さえあれば確認するようにします(試験前日などに集中的に確認することもできます)。

 意外に思われるかもしれませんが、人間の脳は、意味付けが無くても視覚情報のまま記憶できることが大半です。「通学路や通勤路に何があるか」や「行きつけのラーメン屋の席配置がどうなっているか」は、「覚えよう」と思っていなくても自然に頭に入っているもの。英単語や数式も、まずは視覚情報で記憶できるものはしてしまい、それで対応しきれないものに限って別個に対応したほうが全体の効率が遥かにに上がるのです。

 流し読み・通読を繰り返しながら視覚情報として脳に入れて、その作業を反復し、それでも覚えにくいものについては別途まとめていく。このインプットの技法は、論理構造・全体感を素早く掴めるという効果もありますし、また、インプットの効率化には今日ご紹介した以外にもコツがありますので、こちらは回を改めてご紹介できたらと考えています。