高度49メートルから撮影したリュウグウ  はやぶさ2の影が写る。(出所:JAXA、東京大学など)

 探査機を小惑星リュウグウに投下し、来年の着陸を目指す「はやぶさ2」。

 世界初の小惑星への探査機投下が快挙とされるが、それだけではなく、これまでにない科学的成果が期待されている。

 小惑星の破片を持ち帰ったのであれば、すでに先代の「はやぶさ」で実績がある。

 しかし、はやぶさ2では、同じ小惑星の破片を持ち帰るミッションでありながら、太陽系の成り立ちや生命の起源に迫る新たな発見があり得える。

はやぶさとはやぶさ2の違い

 はやぶさの飛行は、満身創痍のなか関係者の努力でようやく帰還できたという感じであった。

 一方、はやぶさ2では着陸は延期され、投下した探査機の機能に問題が発生しているものの、地球に戻ってくることができるか分からなかったはやぶさに比べれば順調である。

 探査機の不具合は成果への影響が心配されるが、はやぶさ2の最大のイベントはリュウグウのサンプル持ち帰りである。リュウグウには、予想より平坦な部分が少なかったため、着陸が延期された。

 しかし、現在のところ、リュウグウからのサンプル持ち帰りが不可能になることが心配されるような状況ではない。はやぶさの教訓を織り込んでいることが現れている。

 探査機として進化したという以上に、はやぶさとはやぶさ2では目的地に決定的な違いがある。

 はやぶさが往復してきたイトカワはS型小惑星であり、はやぶさ2が探査中のリュウグウはC型小惑星である。

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 小惑星は言わば巨大隕石であり、小惑星の分類は隕石の分類と対応する。S型小惑星は普通コンドライト、C型小惑星はCコンドライトに対応する。

 言い換えれば普通コンドライトはS型小惑星の破片が地球に降ってきたもの。CコンドライトはC型小惑星の破片が降ってきたものである。

 実は、これらは色の比較や、軌道から計算できる重量から推測されたものに過ぎなかった。さらに微妙にズレがあった。

 しかし、はやぶさのおかげで、普通コンドライトとS型小惑星が同質のものであることが証明された。

 そうなると、はやぶさ2によって、C型小惑星とCコンドライトが同一のものであると証明されることが推察される。しかし、それだけで大きな科学的成果に期待を膨らませているわけではない。

C型小惑星が語れること

 コンドライトは、ケイ酸塩を中心とした岩石という点では地球上の石と変わらないが、地球上の岩石とはできた環境が違う。そのため、地球上の岩石にない組成や組織を持つ。

 例えば、名前の由来となったコンドルールという球状の組織は、無重力状態できたものである。

 Cコンドライトもケイ酸塩を中心とした岩石であるが、最大20%にも達する水や、5%に達する炭素を含んでいる。しかも、その炭素はアミノ酸等の有機物である。

イブナ隕石 C型コンドライトの中でも、生成した時代が最も古いとされるCIコンドライトに分類される。(出所:ロンドン自然史博物館Website)

 CコンドライトやC型小惑星は太陽系形成初期にできたと考えられている。

 太陽系は宇宙に漂うガスが集まってできた。このガスの圧倒的多数が水素であるが、炭素、酸素、窒素、ケイ素、鉄等の元素も含んでいる。

 初期の太陽系は、中心の大きなガスの塊の周囲をガスが円盤状に囲っているような姿であった。

 中心の大きなガスの塊では、自らの巨大な重力により水素の核融合反応が始まり、太陽となる。

 太陽の周囲の円盤状のガスの雲は、当初は高温であったが冷えるに従い粒になり、粒同士が衝突していくことで、小惑星や惑星になっていく。この最初の段階で現れた粒や粒が大きくなったものがC型小惑星やCコンドライトである。

 太陽では水素の核融合反応でヘリウムができているが、その他の元素は誕生当初のまま、核反応をしていない。水素とヘリウム以外の元素比は、太陽系を作ったガスの元素比を維持していると考えられている

 Cコンドライトも水素やヘリウムなどの一部元素以外は太陽の成分に一致する元素比を持つ。太陽を作った太陽系初期のガス雲からCコンドライトが生まれた証拠である。

 Cコンドライトは初期の状態を保っている。Cコンドライトは熱を受けると抜けてしまう水や、分解してしまう有機物を含む。初期の状態を保っているのだから、調べれば太陽系初期の状況が分かることになる。

 太陽系の初期の状態だけでなく、CコンドライトやC型小惑星は生命誕生の起源に迫る可能性がある。生命は地球上の無機物から有機物が合成され、その有機物から生まれたというのが通説である。

 しかし、その有機物がどのように合成されたかについては、まだ明らかにされていない。生命の起源はCコンドライトがもたらした宇宙由来のアミノ酸ではないかという説がある。

 Cコンドライトが地球にたんぱく質の原料となるアミノ酸をもたらし、そこから生命が誕生したというのだ。

 普通の隕石である普通コンドライトや隕鉄のような他の隕石でも、興味深い情報は得られるだろう。しかし、普通コンドライトは熱変性を受け有機物や水は失われている。

 隕鉄は一度惑星のコアになり、惑星が何がしかの理由でバラされた時に放り出されたものだ。地球内部の様子については教えてくれそうだが、その昔についてはあまり教えてくれそうもない。

 地上の岩石も他の隕石もCコンドライトほど歴史を遡ることができない。また、生命が有機物であるのに対し、基本的には無機物である。Cコンドライトは地球や宇宙の石の中で別格なのである。

 その他隕石とCコンドライトの面白さはレベルが全く違う。普通コンドライトであるイトカワより、Cコンドライトであるリュウグウの方がはるかに面白いのだ。

はやぶさ2が持ち帰るのは最良のサンプル

 太陽系の誕生や、地球の生命誕生に関する情報が秘められているかもしれないC型小惑星・Cコンドライト。

 科学的面白さが別格だとしても、隕石として地球上に落ちてきているのだから、隕石を研究すればよいのではと考えられる方もいるだろう。

 しかし、隕石として地球にもたらされるCコンドライトの研究には限界がある。

 まず、Cコンドライトはレアである。世界で数十例しか知られていない。隕石は上空でバラバラになって降ってくることも多く、何個も落ちてくる場合が多いので、サンプルが数十個という意味ではない。

 しかし、隕石の9割を占める普通コンドライトに比べれば圧倒的に少ない。

 もっと重要なのは、Cコンドライトの価値は、熱変性が少なく初期の状態を保ち、有機物のように強い熱変性を受けると分解してしまうものを含んでいることである。

 地球に落下する場合、大気圏突入により岩石の表面が溶けるほどの熱を受けるし、地球の大気にもさらされる。

 リュウグウからは、大気圏突入の熱も受けず、地球の大気にもさらされていない、生のサンプルが手に入ることになる。

 Cコンドライトにも様々な種類があるが、リュウグウは地球に落ちてきたものと別のタイプである可能性もある。

 リュウグウのサンプルは、人類がこれまで手にしたことのない良質のCコンドライトとなる。

 太陽系の初期の状況や生命誕生について、多くの情報をもたらす可能性のあるCコンドライトの、これまでにない良質のサンプル。非常に期待させるではないか。

 太陽系、地球、生命に関し、現時点でまったく想定もされていなかったようなことが分かる可能性がある。はやぶさ2の帰還を待ちきれない研究者は多いだろう。