来日中のマハティール首相 桐花大綬章を受章 安倍首相とも会談

皇居で行われた大綬章親授式で、天皇陛下から桐花大綬章を手渡されるマレーシアのマハティール・モハマド首相(2018年11月6日撮影)。(c)AFP PHOTO / IMPERIAL HOUSEHOLD AGENCY〔AFPBB News

 米中貿易戦争を勃発させた米ドナルド・トランプ大統領を批判してきたマレーシアのマハティール首相がついに、同大統領に“宣戦布告”した。

 「ゴールドマン・サックス(GS)は、マレーシアを欺いてきた。米司法省はGSに、(マレーシアが1MDB関連の資金不正流用で被害を受けた損失補填として)巨額の手数料を返還させると約束した」

 「GSが不正を働いた証拠はある。ゴールドマンであろうがなかろうが、違法行為は法の支配の下、裁かれるべきだ」

 マハティール首相はこう述べ、マレーシア政府系投資会社「1MDB」の資金不正流用、洗浄(マネーロンダリング)事件で、組織的に関与した疑惑が濃厚になってきた世界最大級の米投資会社のゴールドマンを糾弾。

 米政府に対して、同社に厳しく対処し、コンプライアンス違反などで制裁金だけでなく、業務停止などを視野に入れた厳罰を強く迫っている。

 マハティール首相は「米政府の対応を見守る」とする一方、米政府の対応に関係なく、マレーシア国内で同社への刑事告発の訴訟を起こすことも想定しているとみられる。

 マハティール首相が強硬な姿勢を崩さないのは、前首相のナジブ氏を糾弾するためばかりではない。

 後で詳しく述べるが、1MDB事件は実は、ユダヤ系金融機関によるイスラム諸国からの財産奪取という側面があるからである。そして米国にとっても海外における資金洗浄に厳格なメスを入れたい意図もある。

 事件の最近の動きをおさらいしておこう。

 米司法省は11月初旬、1MDBの資金不正流用でゴールドマンの元東南アジア統括責任者などの元幹部ら2人を「外国公務員への贈賄を禁止する海外不正腐敗行為防止法違反」の罪などで起訴した。

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 同社が組織ぐるみでこの事件に関与し、最高幹部など経営陣の指示が働いていた可能性が高くなっている。

 米政府筋によると、「現在取締役会長で当時、CEO(最高経営責任者)だった(ウォール街の超大物バンカーの)ロイド・ブランクファイン氏ら経営陣が、ニューヨークのフォーシーズンホテルで数回、ナジブ前首相と不正事件の主犯格の華人ブローカーのジョー・ロー被告(米司法省が同社幹部とともに起訴)同伴で会合を持った」と見られている。

 ゴールドマンは、1MDBの債券発行を引き受け、約65億ドル(約7300億円)の資金を調達し、約6億ドル(約680億円)の報酬手数料を受け取ってきた。

 ゴールドマンが要求した手数料は、相場の6倍以上の高値で、「1MDB関連の報酬は、当時の同社投資部門の最高額の案件だった」(米金融関係者)ことからも、経営陣の指示があったことは明らかだ。

 ほんの1か月前に経営体制を一新したゴールドマン。新しくCEOに就任したデイビッド・ソロモン氏は今回の不祥事に対し、米メディアに「極めて惨めで悲惨なこと」で、「違法行為に相当する」と新たな船出の出鼻を挫かれ、落胆の表情を隠しきれない。

 米政府筋によると、「ソロモン氏の関与は現在の時点で、明らかになっていない」とするものの、米の著名金融専門家は次のように警鐘を鳴らす。

 「事件の実態が明らかにされないことが、不測の事態も想定され、ゴールドマンにとって最大の脅威となるだろう」

 今回の資金不正流用の担当部署、投資銀行部門が1MDBの案件を進めていた当時、同部門トップで統括していたのが、現CEOのソロモン氏だった。

 今後の捜査の行方によっては、ゴールドマンの経営中枢にも大きな影響が及ぼされるリスクもある。

 「1MDB」はナジブ前政権が設立。都市開発などを目的に血税が投入されたが、巨額の債務を抱えるとともに、総額45億ドル以上の資金が“消え”、不正流用の疑惑が明らかになった。

(参照:連載「消えた23億ドル~マレーシア政府系投資会社の巨額不正疑惑(上中下)」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43250http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43277http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43331

 1MDB不正は、社債などを通じ調達した資金を実態のない複数のペーパーカンパニーなどにまず支払い、複雑な資金経路を“迂回”した後、マネーロンダリングされ、関係者の口座に送り込まれるという極めて玄人的な手法で実行されてきた。

 こうした中、今回、米国がゴールドマンを訴追した背景には、マレーシアの政権交代がある。

 ナジブ前首相が失脚、マハティール首相の再登板で、前政権関与の刑事追及が進められ、米司法省との捜査連携で実態の解明がなされたことが大きい。

 5月の政権交代直後から、「マハティール首相主導のもと、米司法省にゴールドマンサックスへの補填保障と、刑事追及を要請していた」(マレーシア政府筋)という。

 さらに、米国では7日に更迭されたジェフ・セッションズ司法長官が、「(1MDB事件は)米国史上最大の泥棒政冶(盗賊政冶)による横領事件」で、「不正流用された資金をマネーロンダリングするため企てられた国際的な陰謀」と厳しく糾弾。

 さらに「米国が汚職や資金洗浄の場になることは許されない」と再三語っている。

 2008年の世界金融危機を教訓に、米国が国際的資金洗浄の“楽園”になることを阻止したい米政府は、マレーシアの1MDB事件を追及することで、資金洗浄への確固たる姿勢を内外に示したい狙いがある。

 一方、日本では、金融当局が民間の銀行を監督する立場だが、米国では、民間銀行が連銀や財務省を動かしていると言っていい。

 19世紀末の財政破綻の際、ニューヨークのJPモルガンなど大銀行家が米政府に資金投入、救済して以来、米財務省が銀行家の意に反した政策を行わないのが流儀だという。

 このため、米国の経済政策立案の黒幕は、JPモルガン(第2次世界大戦前)、ロックフェラー(戦後)、そして、冷戦後はゴールドマンサックスが担ってきたとさえ言われる。

 ゴールドマンは、未曽有の金融危機で生き残り、ライバルが敗退した後の金融市場に君臨。

 金融危機前、米国の最大手証券はいずれも高リスクのデリバティブ商品を扱っていたのに、ゴールドマンだけが無傷で撤退できたのは、政治的背景が大きいとされる。

 ウオール街は米国の選挙をお金で動かし、金融規制を骨抜きにしてきた。中でも金融危機によって「政府主導で断行されたAIG救済は、本当はゴールドマンを救済するための『国策』だった」(米金融業界関係者)という。

 ゴールドマンの競合、リーマンブラザーズを破綻させ、AIGを救済したのは、ヘンリー・ポールソン財務長官(当時)だった。長官就任前はゴールドマンのCEOを務めていた。

 ゴールドマンはCDSという破綻保険を買い集め、その売り手がAIGだった。

 CDSの買い手であるゴールドマンは、AIGが破綻すれば、CDSの損失補償を受けられず、破綻危機に追い込まれる状態に陥っていた。

 このため、ポールソン長官は、リーマンブラザーズを破綻させ、850億ドルの公的資金でAIGの救済という方針転換を急遽実施。

 これに伴い、ゴールドマンは、AIGから130億ドルの債権を100%回収することができた。金融危機後、1年以内にゴールドマンが最高益を記録したゆえんだ。

 ちなみに、山一証券倒産時、株の仕手戦で山一と逆張りの投機を徹底し、山一を資金難に追い込んだのが、何を隠そう、ユダヤ系・ロスチャイルドの投資銀行ゴールドマンだった。

 その陰で動いたのが、ユダヤ系のヘンリー・キッシンジャー元国務長官だったと言われている。

 2008年の米国の公的資金による政府の金融危機対応は、金融崩壊の最悪の事態は防いだが、結果的にゴールドマンを「一強」状態にさせた負の側面も招いた。

 また、ゴールドマンと政府の「癒着」は、ポールソン元財務長官だけではない。

 米政権、連銀、世銀などの高官には、弛まない「ゴールドマン・コネクション」が渦巻いていて、ゴールドマンが金融を通じ、米国政冶、ひいては米国を支配していると言っても過言ではない。

 ビル・クリントン政権時代のロバート・ルービン財務長官は、ゴールドマンの共同会長だった。

 ブッシュ政権の経済顧問はゴールドマンの会長だったスティーブ・フリードマン氏で、ニューヨーク連銀会長も務めた。バラク・オバマ政権の財務省首席補佐官だったマーク・パターソン氏も、ゴールドマンの敏腕ロビイストだった。

 ましてや、トランプ大統領は、ビジネスマンだ。

 ウォール街の金融機関から巨額融資を受けており、ウォール街の100社以上に債務があるだけでなく、ゴールドマンの住宅金融専門会社はトランプ氏所有のマンハッタンのオフィスタワーの30%近くを担保に取っているとも言われている。

 ウォール街の帝王、ゴールドマンとは親密な関係にあるのは間違いない。

 トランプ大統領は、ゴールドマン幹部だったスティーブン・マヌーチン氏を財務長官に、ゴールドマン社長だったゲーリー・コーン氏を、国内外の経済政策決定機関の国家経済会議のトップに抜擢。

 さらに、ゴールドマンの外部弁護士のジェイ・クレイトン氏を証券取引委員会の委員長に指名した。

 クレイトン氏の妻はゴールドマンの副社長。ホワイトハウスの最高戦略責任者だったステファン・バノン氏もゴールドマンの役員だった。

 実はトランプ政権の中枢は、「ゴールドマン閥」で固められている。

 今回の1MDB絡みの不祥事は、ゴールドマンの株価を2011年ぶりに下落させるなど、今後の経営にも悪影響を及ぼすことは避けられない。

 マハティール首相は、制裁の上、法の下による処罰を求めており、トランプ大統領の政治判断に委ねられる事態にも発展しかねない。

 マハティール首相にとっては、「20年前の悪夢」が蘇る。アジア通貨危機の根源は、米国のヘッジファンドによるサヤ抜き目的のカラ売りだと、批判。

 投資家ソロス氏を名指しで、「ユダヤ人がイスラム国家を崩壊させようとしている。わが国に対する挑戦だ」とヘッジファンドに支配される米国金融界を非難した。

 著名投資専門家のケイザー氏は、「ゴールドマンは、政府を支配する詐欺師だ」と糾弾する。

 マハティール首相とトランプ大統領。今回のゴールドマンの一件は、イスラムとユダヤの対立をも新たに生みかねない、火種を抱えている。

(取材・文 末永 恵)