苫東厚真発電所(出所:Wikipedia

 北海道の地震では、全道が大停電する前代未聞の事態になった。事故を起こした苫東厚真(とまとうあつま)石炭火力発電所(165万kW)は今も運転できず、「節電要請」が続いている。その原因について北海道電力の電源配置が「一極集中だった」という批判が多いが、これは結果論である。

 苫東厚真は震度7の地震の震源の真上にあった。地震の起こった9月6日午前3時の北海道全体の消費電力は310万kW。その半分以上を苫東厚真が供給していたが、震源から約100km離れた泊原発(207万kW)が稼働していたら、苫東厚真の停電はカバーできただろう。このように原発が止まったままの「片肺飛行」は全国で続いている。

北海道は「片肺」で冬を越せるのか

 午前3時8分に地震が起こったとき、苫東厚真2号機と4号機は緊急停止したが、1号機は動いていた。北海道全体が大停電になったのは、1号機が停止した3時25分だ。この17分間に何が起こったのかは、これから詳しい調査が行われるだろうが、今のところ分かっているのは、それまでは他の発電所も動いていたということだ。

 一部の発電所が止まっても、ただちに大停電になるわけではない。供給力が落ちると、負荷(電力需要)を自動的に遮断し、需給のバランスを取る。北電は「130万kWの負荷遮断までは想定していた」という。つまり電力供給が180万kWまで落ちてもバランスはとれたはずだ。

 しかし3時25分に苫東厚真1号機が落ち、電力供給が消費を下回ったため周波数が低下し、これによって他の発電所も切り離され、それによってさらに送電網の周波数が低下する・・・という連鎖反応が起こった。1号機が落ちたあと、大停電になったのは一瞬だった。

 大停電のときは電気が少しずつ止まるのではなく、ブレーカーが落ちるように一挙に大停電が起こる。送電する周波数が大きく低下すると電気機器が壊れるので、発電機が送電網から自動的に切り離されるからだ。

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 電力供給が消費を大きく下回ったのは、電力供給の半分以上を苫東厚真に頼っていた北電にも問題があるが、泊が動いていればこんな片寄った運用にはならなかった。泊の3基のうち1基が定期検査で止まっていたとしても110万kWは供給できたので、地震で停止しなかった火力と合計して、電力供給には十分余裕があった。

 電力危機はまだ続いている。北電は「苫東厚真の全面復旧は11月ごろになる」というが、そのころ北海道には雪が降り始める。冬の最大消費電力は525万kWで、北電の最大供給量580万kWしかない綱渡りだ。この状態で1つでも発電所が落ちると、また大停電が起こる可能性がある。真冬の北海道で大停電が起こったら、多くの凍死者が出るだろう。

「東京大停電」は起こるか

 これは北海道だけの問題ではない。首都圏の電力供給の90%は火力発電で、14基の火力発電所のうち12基が臨海部に集中している。東京湾に直下型地震が起こったら、首都圏も大停電になる可能性がある。その場合には、日本の中枢機能も麻痺するだろう。

 そういう事件が起こったことがある。1987年7月23日、東京の猛暑で東京23区で大停電が起こり、国会の予算委員会が中断された。これは冷房需要が急速に伸び、1分間に40万kWも電力需要が増えたためだった。

 東電の電力供給は北電の10倍以上あり、他の電力からも融通できるが、首都圏の電力使用量も綱渡りだ。次の図のように今年(2018年)1月26日には、大寒波と大雪で電力使用量が最大発電能力の95%になり、融通でしのいだ(東電調べ)。

 このとき「原発がなくても電力は足りてるじゃないか」という人がいたが、こんなぎりぎりの運用を足りているとはいわない。大きな火力発電所が落ちると、大停電になるおそれがある。

 2011年の福島第一原発事故の直後に大停電にならなかったのは、負荷を遮断して需要を大幅にカットしたからだ。このときは柏崎刈羽原発(総出力821万kW)も動いていたが、今はそれが止まったままだ。柏崎刈羽の6・7号機は、安全審査に合格した後も再稼動できず、福島第一・第二原発は廃炉になった。

電力自由化で大停電は増える

 大停電の責任は第一義的には北電にあるが、上のような事情を考えると、彼らの経営努力にも限界がある。泊原発が動かせないのは、2012年に定期検査が終わった後も、安全審査が終わらないからだが、これには法的根拠がない。原子力規制委員会も「再稼動の審査はしていない」と国会で答弁している。

 泊原発の場合は、発電所の近くに「12万~13万年前以降に動いた断層」があるかどうかをめぐって不毛な論争が続いているが、これを棚上げして北海道の高橋知事が再稼動に同意すれば、運転開始は2カ月ぐらいあれば可能だ。

 これは2012年に野田政権が大飯原発3・4号機の再稼動でやったことだが、安倍政権は「安全審査に合格して地元が同意しないと再稼動しない」と約束したため、身動きが取れない。こういう状況を生み出したのは民主党政権だが、それを5年以上放置している安倍政権の責任も重い。

 長期的には、大停電が増えることは避けられない。今まで日本で停電が少なかったのは、電力会社が地域独占の代わりに供給責任を負ってきたからだが、電力自由化でそういう時代は終わる。今は過渡的な状態だが、2020年には発送電が完全分離され、発電会社は供給責任を負わなくなる。

 いま電力会社が送電網を増強しても、発電と分離されたら回収できないので、インフラに投資するインセンティブがない。それでも北電は来年、石狩新港発電所を稼働する予定だが、人口の急速に減少する北海道で、それ以上インフラ投資しろというのは無理だ。

 発送電分離を進めたアメリカのカリフォルニア州では、発電業者が大量に参入する一方、送電会社が設備を増やさなかったので大停電が頻発した。いまだにカリフォルニアの停電時間は年間130分。それに対して日本の停電時間は21分だが、日本も大停電時代になるだろう。

 割り切って考えれば、大停電してもしばらく不自由な生活をするだけだ。病院など生命に関わる施設は、自家発電や無停電電源装置などの自衛策をとればいい。大停電はそういう「自由化のコスト」と考えるしかないが、日本人がそれに慣れるには時間がかかるだろう。