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イノベーション
2018.08.09

本当は恐ろしい? ルンバとアレクサのマリアージュ
IoT時代、<個人情報の種類と収集の仕方>が変わる

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ルンバ980とアマゾンアレクサ(Echo Dot)。ルンバの筐体の真ん中にあるカメラと複数のレーザー/赤外線センサーによって、部屋の「マッピング」が可能になった。(著者撮影)

 2017年11月16日(木)。

 アマゾンアレクサ(Echo Dot)日本語版のデリバリーが開始された、この記念すべき日と相前後して、著者の家にやってきたIoT機器がもうひとつある。

【参照】アマゾンアレクサが家に来て分かったこと驚いたこと
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51827

 それは、米アイロボット社のロボット掃除機、「ルンバ」シリーズの最上位機種、ルンバ980である。

 実はこれもアマゾンでの買い物だ。

 因みに、昨年11月時点のルンバ980のお値段は消費税込みで約11万円超。決して安い買い物ではないが、あえてこのタイミングで購入に踏み切ったのには明確な理由があった。

「ルンバ」シリーズのハイエンド機種のいくつかが、アレクサ日本語版の最初にリリースする「スキル」に対応するらしい・・・。複数のウェブ記事が、ほぼ確実な情報としてこのニュースを伝えていたからだ。

 ルンバ980を専用アプリでコントロールするだけでなく、アレクサとの音声対話によって意のままに操るという未知の体験。

 ルンバとアレクサのマリアージュは、著者の期待や想像をはるかに超えた、「ディライト体験」となることが予想された。

アレクサのスキルとは、たった5秒以内で連繋

 ルンバとアレクサの連繋は、『IoT Today』の読者の皆さまのようにデジタルリテラシーの高い方々であれば、お手の物だろう。

 まず、宅内のインターネットルーターの管理ソフトにMACアドレスを打ち込む方法で、ルンバとアレクサのそれぞれをWi-Fi接続する。

 次に、アレクサ導入時にスマートフォンにダウンロード済みのアレクサアプリの「スキル」(アレクサの機能を拡張する専用ソフトウエア)のメニューから、ルンバの「スキル」を探す。

 そして、ルンバの「スキル」が見つかったら、ルンバの「スキルを有効にする」ための設定ボタンをワンクリックするだけだ。

 この設定には、ものの5秒もかからない。

 ワクワクする気持ちを抑えつつ、「アレクサ、ルンバを使って掃除して」とアレクサに話しかけてみる。

 すると、廊下の向こうから、「ピポ、パポ、ピー」というルンバのコミカルな起動音が聞こえ、いささか元気すぎるローターの回転音とともにロボット掃除機による掃除がスタートしたことが分かる。

 ルンバが掃除を完了する、もしくは掃除中に充電が必要になると、自動で「ホームベース」と呼ばれる充電スポットを探し出し*1、再びコミカルな終了音とともに本体の電源を落として充電モードに入る。

 急な来客や用事があるなどして、ルンバの掃除を途中で終了したい場合は、アレクサに「アレクサ、ルンバを使ってホームベースに戻して」と話しかけるだけで良い。

 これらアレクサをインターフェースにしたルンバ980の一連の操作は、専用アプリを起動してルンバを操作する感覚とほぼ同一の印象で、購入以来、全くストレスを感じさせない。

*1:SLAM技術(Simultaneous Localization and Mapping:自動位置推定と環境地図作成を同時に行うもの)と言われ、自動運転でも活用が期待されるコア技術のひとつ。

秀逸なルンバ980の「マッピング技術」

 ルンバは全機種が赤外線とレーザーによる探索距離の短いセンサーを装備し、デスクやチェアの脚など障害物を巧みに避けながら、掃除を続ける。

 その動作には、「ほほ、なるほど」と思わせる器用さと、対照的に「えっ、なぜ」と感じさせる意外性があり、ユーザーを飽きさせない。あたかも掃除をモチーフにしたアイスダンスを見ているかのようである。

 しかも、時系列的に掃除の手順や動作が洗練されてきたり(例:壁や家具にぶつかる頻度が激減する)、潜在的に転倒や落下のリスクのある暗がりのスペースはあえて掃除を避けたりする(例:ルンバは2cmを超える段差は乗り越えられないケースが多い)など、AI の学習機能による進化の側面に注目しても興味は尽きない。

 そして、2015年以降に発売された、ルンバ980を頂点とする最上位機種のルンバ900シリーズには、新たなソフトウエア、センサーに加え、筐体のほぼ中央にカメラが搭載された。それにより、ルンバは掃除した家のスペースが地図の形で可視化される「マッピング技術」を手に入れたのである。

 まめに掃除をする家庭では、掃除されたスペースと掃除されなかったスペースを目視だけで判別することは難しいだろう。

 しかし、ルンバの専用アプリの「履歴」から、ルンバが掃除を行った宅内のマップを表示させれば、薄い円筒形のルンバ本体が通り抜ける幅がない、もしくはルンバが入り込めるだけの十分な高さがないなどの理由で、掃除がなされたかったスペースの特定が容易だ。

【参照】ルンバ980走行イメージムービー
https://www.youtube.com/watch?v=rUK9hDNLZlo

 この機能を活用すれば、ユーザーが家具の配置をシミュレーションしたり、次に新しい家具を購入する際は床面から家具本体までのルンバによる掃除空間の有無を購入の検討材料にしたりすることも可能になる。

ルンバが掃除を行った床面はその都度マップ化される。掃除が終了し、ルンバは自動でホームベースに戻っている(真ん中下の黒い丸がルンバ)。

アイロボット社のルーツは軍事用ロボット

 ところで、ルンバを製造販売している米アイロボット社は1990年の創業だ。

 マサチューセッツ工科大学のMIT人工知能研究所で働いていた、現CEOのコリン・アングルら3名が中心となって起業した、テクノロジードリブンの元ベンチャー企業である。

 ルンバの日本における累計販売台数は約200万台で、ロボット掃除機におけるシェアは約50%を占めると言われている。

 そう、アイロボット社にとっても日本は北米(ロボット掃除機シェア約90%)に次ぐ、世界第2の最重要市場なのだ。

【参照】ルンバのアイロボット社、国内ローンチ発表会
https://robotstart.info/2017/04/20/moriyama_mikata-no21.html

 アイロボット社発展の歴史は非常に興味深い。

 この会社の元々の「なりわい」は、偵察や爆弾処理を専門とする軍事用ロボットの開発・製造であり、2016年2月に投資ファンドのアーリントン・キャピタル・パートナーズに軍事用ロボット部門を4500万ドルで売却するまで、軍事用ロボットが、技術的にも事業経営的にも会社の屋台骨を支えてきた。

【参照】 アイロボット社の軍事用ロボットのデモ:iRobot 310 SUGV B-Roll
http://media.irobot.com/media-kits?item=7

 したがって、ルンバの上位機種に採用されている基幹技術、つまりカメラ、センサー、ソフトウエア(例:SLAM技術)などは、上記の映像で見る軍事用ロボットのデチューン版であると考えるのが自然だ。

 東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所の事故の直後、破壊された建屋の状況を探索するため、アイロボット社の軍事用ロボット「パックボット」「ウォーリアー」の2機種が投入されたことは知る人ぞ知る事実である。

 話はやや脱線するが、アイロボット社のように軍事用の製品技術を民生用に転用し、「IoT × スマートホームの領域」で存在感を発揮している米国企業のひとつに、クラスター爆弾の開発・製造などで有名なハネウェルがある。

 カメラ、センサー、ソフトウエアを統合運用する最先端デジタル技術は非常に応用範囲が広く、CES 2018で垣間見えた、IoTの今後の有望市場である「自動運転」「スマートホーム」「スマートシティ」の各領域とも極めて親和性が高いことが注目される。

【参照】企業トップが「なりわい」革新を唱えたCES2018
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52114

マッピング情報のマーケティング活用は是か非か?

 一方でひとつ、大きく気になる情報がある。

 それは、アイロボット社の現CEOコリン・アングルが「利用者の同意が得られれば、ルンバが取得した「情報」をスマートホームのエコシステムに提供できる」と堂々と発言していることである。

【参照】アングル:掃除機ルンバ、室内データ収集の最新鋭機に大化けか
https://jp.reuters.com/article/us-irobot-strategy-idJPKBN1AA0CY

 つまり、アイロボット社はルンバを通じて収集するユーザーの家庭の「個人情報」を、スマートホームに関連する第三者の企業に提供し、マーケティング活用(平たく言えば、データを販売してマネタイズ)しますよ、と宣言していることに等しい。

 そもそもルンバがせっせと取得した「個人情報」とは、果たしてユーザーの宅内の「掃除の頻度や1回あたりの時間」や「マッピング情報」(つまり間取りの2次元情報)だけなのだろうか。

 カメラを通じて、密かに、部屋に設置されている家電製品や家具の数や種類、カーテンや壁紙のデザイン、住んでいる人の属性や生活パターンなど多種多様な個人情報をデータとして取り込んではいないだろうか。

 おそらく、著者も含めて、大半のルンバ上位機種ユーザーは、ろくに利用規約を読むことなしに専用アプリの「許諾」ボタンをクリックしてしまっているはずだ。

「利用者の同意」はユーザーが専用アプリを使い始めた時点ですでに成立している、と考えるべきであろう。

 これまでは、企業が収集する個人情報の種類はSNS上での会員登録、企業ウェブサイトへのアクセスログ(閲覧履歴)、ネット通販での購買履歴、ウェルネス機器(ウェアラブルなセンシングギア)による生体データなど、主に「テキストや数値といった定型化されたデータの形」で行われることが前提だったと思う。

 しかし、アレクサに関するインプレッション記事の中でも触れたように、今後、企業が収集する個人情報の範疇には、テキストや数値に依存しないデータ、すなわち「音声AIとの自然言語による対話情報」「AIカメラが認識する各種の画像情報」も組み込まれてくる、と考えを新たにするべきだろう。

 加えて、ルンバが取得した個人情報を共有する「スマートホームのエコシステム」企業には、当然、ルンバのマリアージュのパートナー企業・アマゾンもリストの最上位にラインクインするに違いない。

 いささか穿った見方をすれば、ユーザーの家庭内においては、ルンバは「目と触覚」、アレクサは「耳(と口)」の機能を分担し、「テキストや数値ではない、定性的な個人情報」収集をより完璧に行う上で見事な補完関係にあるとも言える。

 仮に、近い将来、アマゾンの「おすすめ商品」や「バーチャルダッシュ」に、閲覧した記憶のない家電製品や家具の関連情報がフィーチャーされていたら・・・。

 その時は一応、ルンバとアレクサの「共犯関係」の可能性を疑ってかかった方が良いかもしれない。レコメンドの内容が、家族以外の第三者が知り得ない、配偶や子供など本人以外の家族の趣味や嗜好性に関するものなら、なおさらだろう。

 ルンバとアレクサの絶妙なマリアージュによって、企業のAIが「目」と「耳」を使って収集するかもしれない個人情報。

 今年5月に欧州連合(EC)で施行された「一般データ保護規制(GDPR)」や日本政府が導入を検討している「情報銀行」認定制度*2に見られる、『定型化された個人情報を企業側からお客さま側に戻すという考え方の前提』は、もはや牧歌的というか、周回遅れになってしまっていることには注意が必要だ。

「個人情報保護の法規制のスピード」よりも「AIやIoTによる破壊的イノベーションのスピード」の方がはるかに速いのは今に始まったことではない。

*2:日本政府が2018年秋にも導入を進める施策。まず、個人情報をお客さま自身が管理できる「パーソナルデータストア(PDS)」と呼ばれる仕組みを構築、お客さまからPDSの預託を受けた「情報銀行」がデータ提供先をマネージすることで得られる便益をお客さまに戻す仕組み。

ユーザーが自己責任で備えるべき「プランB」とは

「スマートホーム」のみならず「自動運転」も「スマートシティ」も、人々の「体験」を変え、新たな「習慣」となって過去のライフスタイルを塗り替える。

 しかし、「光」のある所には必ず「陰」があるように、物事には「利」の部分が大きければ大きいほど、「害」の部分が余計に際立ってくるという傾向があると考えるのはアイロニックに過ぎるだろうか。

 分かりやすい例を挙げよう。

 著者は登山が大の趣味だが、3000m級の稜線歩きのエクストリームなワクワク体験の背景には、死と紙一重の滑落や天候の急変など、潜在的に事故や遭難のリスクが常に付きまとう。

北アルプス・剱岳(標高2999m)の難所「カニのタテバイ」上部から前劔・劔御前の岩稜を望む。(著者撮影)

 そう考えると、登山とIoTがもたらす体験の未来予想図は、エモーショナルな高揚感も大きい分、「リスクに対しては自己責任が原則」という点で似通っているのかもしれない。

 初心者は無知であるがゆえに、概ねリスクを軽視しがちだ。

 一方で、経験豊かな登山者は、エクストリームな稜線歩きを満喫しながらも、頭の片隅の何処かでワーストシナリオに対する「プランB」を周到に準備しているものだ。

 IoT時代、<企業の個人情報の種類と収集の仕方>が変わる。

 その時、私たちユーザー側が自己責任で備える「プランB」はどんなものになるべきだろうか。

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