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イノベーション
2018.06.18

AI時代こそ必要な「お客さま」への理解と共感
IoT時代、<企業のお客さまとの向き合い方>が変わる

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AIを駆使した提案も、お客さまに寄り添えなければ意味がない。

 IoT時代、お客さまと企業がデータで繋がり、企業のサービス提供のあり方が大きく変わる中で、お客さまの気持ちの変化に寄り添う「エクスペリエンスデザイン(体験設計)」の考え方や手法が注目を集めるようになって来ている。

 なぜなら、エクスペリエンスデザインの考え方や手法は、お客さまの気持ちへの共感と理解を通じて、企業のマーケティングにおける機会点の発見やKPI設定の手がかりとなるからだ。

 現在、多くの企業が「マーケティングオートメーション」の導入を開始しており、AIを搭載した専用ツールも少なからず紹介されている。

 企業がお客さまの過去の購買履歴やウェブサイトの閲覧履歴などをデータベースに蓄積し、AIを駆使してアナリティクス(解析)を行うことで、お客さまのニーズにマッチしそうな商品やサービスのリコメンド、広告の配信を行うなどがそれにあたる。

 しかし、一見効率的に見えるその運用が、「本当に」お客さまのロイヤルティ醸成に繋がっているかどうかは評価が別れるところだろう。

唐突に画面に表示されたアマゾンの「バーチャルダッシュ」

 例えば、アマゾンは2017年8月、プライム会員向けにデジタル・ダッシュボタン「バーチャルダッシュ」を導入した。

 ある日突然、著者のアマゾンのトップ画面右側に、これまで利用したことのあるクラフトビールやワインのショップ名が書かれた、色とりどりのダッシュボタンが並んだのである。

 ビジュアル的には先進感あふれるアイデアだが、著者は正直なところ、これは余計なお世話だと感じた。

 そもそも著者はネットショッピングで、手頃な価格で美味しい、掘り出し物のワインを探し出す喜び(いわゆるセレンディピティ)に価値を感じるタイプの人間である。

 さらに残念なことに、ダッシュボタンの中には二度とリピートしたくないと思ったショップのボタンも含まれていた。

 過去に一度、配送のトラブルで苦々しい経験をした記憶が、あろうことか鮮明によみがえってきてしまったのである。

 企業が良かれと思って提供したサービスが、(それがお客さまの過去の購買行動の履歴をベースにしているからといって)全てのお客さまのショッピング体験を豊かにするとは限らない。

「データに基づいた完全無欠な正確性=うれしいサービス」となるほど、人間の心理は単純ではない、ということだろう。

「バーチャルダッシュ」に限って言えば、アマゾンはせめて、表示の有無をまずプライム会員に確認すべきだった、と思う。

 今後、お客さまの行動データのアナリティクスにAIの活用が進んでいくにつれ、このようなタイプの、企業の思惑とお客さまの気持ちの「ボタンの掛け違え」が増えていく可能性がある。

寓話『サトリのワッパ』が示唆するもの

 マーケティングオートメーションにおけるAIの可能性と、お客さまの気持ちの関係との近未来のあり方について考える上で、非常に興味深い寓話がある。

『サトリのワッパ』(「ワッパ」とは曲げ物づくりの弁当箱*)というタイトルの説話で知られているので、聞いたことがある読者の方も多いかもしれない。

*:ワッパを「童子」に由来するという説もある。

 覚(サトリ)とは日本の妖怪のひとつである。鳥山石燕による江戸時代の妖怪画集『今昔画図続百鬼』に紹介されているほか、日本全国で人の心を見透かす妖怪として数々の説話が伝えられている。

「サトリのワッパ」というタイトルでこの説話をご存知の読者の方も多いだろう。それは次のようなストーリーだ。

 猟師が山でたき火をしていると、どこからともなくサトリが現れる。猟師が「サトリは恐ろしい」と心の中で思うと、サトリは「お前はサトリが恐ろしいと思っているな」と言い当てる。

「サトリに食われるのではないか」と怯えると、「お前は食われるのではないかと恐れているな」と言い当てる。

 そして、猟師が「どうしたらサトリから逃げられるだろうか」と考えると、「お前はどうしたら逃げられるかと思案しているな」とさらに言い当てる。

 猟師はすっかり絶望してサトリに食われることを観念してしまった。

 しかし、それがあろうことか、たき火のそばに置いてあった弁当箱のワッパが火の熱で突然弾け、その勢いで火の粉をサトリに浴びせかけたのである。

 サトリはこれに大いに驚き、「人間というものは恐ろしい。何を考えているのか、全くわからぬ」と言って猟師のもとからそそくさと退散した。

 説話のなかで、猟師は「お客さま」、人間の心を読むサトリという妖怪は「AI」に見立てることができる。

 AIが進化し、やがて「シンギュラリティ」(Singularity:技術的特異点)に近づけば、現在よりも膨大なデータの高速アナリティクスとディープラーニング技術によって、人間の行動をかなりの精度で、しかも場合によっては心の細かな動きまでも予測することが可能になるかもしれない。

 しかし、この状況の中でお客さまが抱く気持ちは、常にポジティブな感情とは限らない。

 お客さまの気持ちを無視して、一方的に、押し付けがましく、リコメンドやサービス提供が行われれば、お客さまに「いらいら」「不安」や「薄気味悪さ」というネガティブな感情が残るリスクも高いだろう。

 端的に言って、サービスを提供する企業の側に求められるのは、お客さま理解、すなわちお客さまの気持ちの変化に寄り添う活動を、組織全体の活動として進めることである。

エクスペリエンスとマーケティングオートメーションの融合

 冒頭に述べたように、エクスペリエンスデザインの考え方や手法は、お客さまの気持ちへの共感と理解を通じて、機会点の発見やKPI設定の手がかりとなる。

 企業がマーケティングオートメーションを導入する際に陥りがちな過ちは、(1)自社のマーケティングプロセスを棚卸しし、(2)お客さまの行動データ(購買履歴やウェブサイトの閲覧履歴)を収集・解析した後、お客さまへの理解や共感のプロセスを省略して、いきなり(3)マーケティングシナリオを描いて施策(リコメンドや広告配信)を実行してしまう、というものである。

 本来はプロセスの(2)と(3)の間に、お客さまの生活価値観を主要な手がかりとして、ペルソナ設定(仮想のお客さま像の定義)を行うべきだ。

 さらに、そのペルソナが企業の商品やサービスの購入を思い立ってから、実際に購入し、最終的には購入体験を振り返るまでのカスタマー・ジャーニー・マップを描いてみて、お客さまのペインポイント(ブランド体験においてお客さまの気持ちがネガティブになる点)を抽出する、という一連のプロセスが不可欠になる。

 ペインポイントの特定は、お客さまのブランド体験を豊かにするために有益な示唆や気づきを生み出す。

 必然的に企業が描くマーケティングシナリオはリアリティに富み、お客さまの細かな気持ちの変化に寄り添う形に近づいていく。

 サトリの寓話の中で語られる「弁当箱のワッパが火の熱で弾け、火の粉をサトリに浴びせかける」ような、単純な購買データの積み上げや分析だけでは推論できないような何か、人間にしかできない<新しい発想や価値の提案>を生む発見こそが、お客さまの体験をより豊かにするための「ディライト体験」発生装置になるとは言えないだろうか。

 AIのアルゴリズムを開発するのは、他でもない人間である。

 AIはエクスペリエンスデザインを「学習」できるか、という前に、まず、マーケティング活動にAIを導入しようとする、企業内部のマーケティング責任者の発想そのものがお客さま主語にシフトして行く必要があることは言うまでもない。

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