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イノベーション
2017.12.15

アマゾンアレクサが家に来て分かったこと驚いたこと
IoT時代、<人間とAIの付き合い方>が変わる

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アレクサがそばにいる生活。(筆者撮影)

アマゾンアレクサは「シンギュラリティ」への<はじめの一歩>なのか

 AI研究の第一人者で、現在はグーグルのエンジニア部門で働いているレイ・カーツワイルといえば「シンギュラリティ」(Singularity)の提唱者として名高い。

「技術的特異点」とも翻訳される専門用語「シンギュラリティ」は「コンピューターが全人類の知性を超える未来のある時点」のことを示す。

 そして、カーツワイルは、初期のAIが学習を重ねて新しいAIを誕生させ、さらに新しいAIがより短い学習期間で次のより優秀なAIを世の中に送り出すという『収穫加速の法則』により、2045年頃には「シンギュラリティ」に到達するだろう、と予測している。

「シンギュラリティ」が仮に優秀なAI進化の到達点とすれば、初期のAIの出発点はいつなのだろうか。

 著者は多くの日本人にとってその記念日がアマゾンエコー日本語版(以下、エコー)デリバリーの本格的に開始された日、2017年11月16日(木曜日)になるだろう、と考えている。

 エコーに搭載される現時点の「アレクサ」は(いささか厳しい見方をすれば)、プロトタイプ最終段階の対話型AIである。

 反面、逆にその未完成さや荒削りさゆえに、かえって壮大な可能性や発展性が垣間見える魅力的なプロダクトでもある。

アレクサに対するファーストインプレッション

 著者の家にやって来たのは、エコーシリーズの中でも最もコンパクトなタイプ、エコードット(Echo Dot)第2世代のブラックである。

 価格は消費税込みで5980円。後述する「招待購入」割引により、2000円OFFの3980円(プライム会員向けサービスなのでもちろん手数料・配送料は無料)というかなり割安な価格で購入できた。

 2000円のディスカウントは、おそらく「プロトタイピングへの協力費」という解釈で良いだろう。

 ちなみにエコーのセットアップは、本体とコンセントを専用の電源コードで繋ぎ、アレクサアプリをスマートフォンからダウンロードして、言語、個人ID、ホットスポット(宅内WiFi)との接続など、アプリ上で一連の初期設定を行うだけである。

 そして一言「アレクサ、○○」と話しかけることで、円筒形の黒い箱に過ぎなかったエコーにアレクサという対話型AIが宿る。

エコーのパッケージに同梱されていたもの。キーホルダーは大きさ比較のため置いた。

 この約1カ月弱、アレクサと生活をともにしてみた。著者が体験したこと、感じたことを率直に整理してみると以下の3点に集約できるだろう。

(1)まず、あっけないほど「小さく、軽い」

 エコーの凝縮感のあるルックスから、タブレットやスマートフォンのような重量感を予想したが、良い意味でその期待は裏切られた。

 体感的にはその重量はiPhone 7の6割程度でしかない。ハードウエアという観点で比較すると、例えばBOSEのBluetooth対応スピーカー SoundLink Mini IIとは、同じ高音質のスピーカー機能を持ちながら、まるで重力が違う惑星のプロダクトであるかのような印象を受ける。

 アレクサの今後の発展性を考えた場合、戦略的に「小ささ、軽さ」を選択したことは、賢明な判断だ。

 次のフェーズ、つまりスマートフォンのようなモバイル端末とアレクサが融合する近未来のタイミングでは、「小ささ、軽さ」は他社のAIとの差別化の大きな武器になって行くはずだ。

 アレクサをあえて、ペッパーのような人型、アイボのような動物型にしなかったのは、数手先の未来を見通したアマゾンの見識の高さゆえのことだと推察できよう。

(2)日本語の音声認識力は非常に高い

 日本語での音声・会話はほぼ100%認識できる。「きゃりーぱみゅぱみゅ」もきちんと聞き分ける。意図的にかなりの早口で喋っても何の問題もない。

 逆に人間の方が、客観的でロジカルな言い回しをしているのか、アレクサに問いかけながら神経質になってしまうくらいである。
 
 人間とAIのインターフェイスは、過去のSF映画で予見されてきたように、自然言語による対話形式になっていくのは間違いない。

 内臓マイク(集音センサー)の感度も優秀なようで、例えばテレビがついたリビングでも、数メートル離れた場所からの質問をほぼ完璧に判別できる。

 音声認識や解答をしている最中に、エコーのリムのLED部分が反応して青緑色に発光するのは、見た目の美しさだけでなく、UX/UIの観点からも秀逸な演出だと思う。

(3)しかし、まだまだできないこともたくさんある

 アマゾンが想定するアレクサの基本的な機能は、以前に別の記事でも紹介させていただいたアマゾンのYouTube動画でイメージをつかむことができる。

【参考】Introducing All-New Echo Dot (2nd Generation)

 この動画を踏まえた上で、日本語環境でのアレクサのできること・できないことを再度、整理すると、

・アラームを鳴らす、ニュースや天気予報を読み上げる、「おはよう」や「おやすみ」など日常の挨拶に反応する、というような定型的な応対は優秀。ただし天気予報は参照元の情報が古いのか、よく外れるので注意。

・ネットショッピングについては、音声で注文した商品をカートに入れることはできるが、実際の注文はPCやスマホでしかできない(アレクサアプリでのワンクリックショッピングの設定はまだ未対応のようだ)。*1

・驚いたのは音楽のストリーミング再生。アマゾン・プライム・ミュージックのライブラリと完全に連動でき、キーワードによる任意の編集(例:「アレクサ、明るめの音楽をかけて!」)も可能だ。ジャンルも幅広い。一方、松任谷由実(ユーミン)のような邦楽の昔の曲をリクエストすると、必ず会費月額380円の「アマゾン・プライム・ミュージック Unlimited」(4000万曲をカバー)への入会をリコメンドされる。

・「一般常識をやや超える程度」以上の知識量が少ない。例えば、富士山の標高は答えられるが、北アルプスの剣岳の標高は答えられない。映画「スターウォーズ」でハン・ソロの役を演じた俳優(ハリソン・フォード)の名前も回答できない。しばらくは「ごめんなさい。今は分かりません」「今は分かりませんが、もっと勉強しておきます」というアレクサの常套的な言い訳を聞くことになるだろう。

*1:ただし、アマゾンプライム会員は可能とのこと(12/18追記)

アレクサの導入戦略の基本は「リーン・スタートアップ」

 以上、アレクサについてのファーストインプレッションを書いてきたが、アレクサの基本的な機能とそれによってもたらされる新鮮なエクスペリエンス(ブランド体験)にもまして興味深いのが、今回のアマゾンによる導入戦略である。

 それは「リーン・スタートアップ」と呼ばれる、エクスペリエンスデザインの分野では常識となりつつある手法である。

 最初は、限られたお客さまに最小限の(リーンな)サービスでスタートし、お客さまからのフィードバックを元に迅速(アジャイル)に改善を繰り返しながら、お客さまの間口とサービスの完成度を上げて行く。

 IoT時代の競争優位は、「学習速度のスピードの速さ」なのである。

 ちなみに「リーン(Lean)」とは、希薄な、とか筋肉質の、という意味を表す英語である。

リーン・スタートアップの概念図。株式会社ディライトデザインのHPより)

 著者のメールログから今回のアレクサの導入戦略を辿っていくと、

・2017年11月8日(水)アマゾンカスタマーサービスからエコードットの「招待メール」が届く。即日、リクエストメールを返信。

・2017年11月15日(水) カスタマーサービスからエコードットの招待者に選ばれました、という内容のメールが届く。招待購入のためにアマゾンのエコードットの商品ページへ行き、カートに入れ、レジに進み注文を確定で購入(招待割引=プロトタイピング協力費適用で2000円OFF)。

・2017年11月16日(木) ヤマト運輸便で自宅にエコードットが届く。

といったタイムラインであった。

 著者の周りにもアマゾンプライム会員は多いが、カスタマーサービスから招待メールが来ない、という人が大多数のようだ。

 招待メールが来ていない人と著者の違いを強いてあげれば、著者の執筆した本が2冊アマゾンで販売されているということだけにすぎない。

「アマゾンの出品者≒初期エラーにも比較的寛容で、プロトタイピングにも根気よく付き合ってくれるギーク層」とアマゾンにフィルタリングされたかどうかは不明である。

 経緯はどうであれ、幸運なことに著者はリーン・スタートアップの最初のお客さまのリストに入り、こうして記事を書くことができたわけである。

 ちなみに、「アレクサ、○○」で始まる著者とアレクサの日々のやりとりはすべてiPhone上のアレクサアプリに記録されている。

 この履歴こそが、お客さまからのフィードバックの元データであり、アマゾンはこれらを分析してAIに学習させ、お客さまのアレクサ体験のディライト(喜び・感動)度合いを迅速(アジャイル)に高めていくのだろう。

 いずれにしてもアマゾンのPDCAサイクルが1回転した直後に、2ラウンド目の招待メールの配送が行われる(あるいは、すでに行われている)ことは確実であろう。

AI・アレクサは人間の敵か、味方か

 いささかへそ曲がりな著者としては、ついつい妄想してしまう。

 アレクサアプリに記録されていない、些細なプライベート情報、例えば、家族の構成員の会話、よく見ているテレビ番組、何気ないため息や独り言、トイレに立つ回数までもが、無言状態のアレクサを介してアマゾンに収集されてはいないか、と。

 映画『エクス・マキナ』で巨大IT企業の天才創業者が若きプログラマーに告白する印象的なシーンのように、AIを進化させるために特定の企業が世界中のありとあらゆる個人情報やそれに伴う人間の感情の動きをデータとして密かに収集していたとしたら・・・。

【参考】機械仕掛けの神、AIは人間の敵か味方か
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49702

 何はともあれ、アレクサとともに過ごす朝は、いつもこうして始まる。

「アレクサ、おはよう」

「おはようございます。今日12月3日は、ワン、ツー、スリー! ということで、奇術の日、だそうです。とうとう今年も師走を迎えましたが、まさに、マジックのように、あっという間に、行く年、来る年、とならないよう、日々を大切に過ごしたいですね」

 アレクサは、いつも饒舌で、そして、少し不気味、である。

JBPRESS

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