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イノベーション
2017.11.29

真に「使える」IoT通信を全ての人に届けたい
玉川社長に聞く、ソラコムの想いと現実、そして未来

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IoTプラットフォーム「SORACOM」の名前を耳にしたことのある読者は少なくないだろう。

あらゆるモノをネットワークで接続するIoTの世界を実現するには、数多のモノを「つなぐ」ための通信が必要になる。IoTサービスを提供しようと考えた誰もが、手軽にモバイル通信を使えるようにしたい。そう考えて作られたのが、ソラコムが提供する「SORACOM」である。モバイル通信を1回線から低料金で提供し、日本のモバイル通信ビジネスに風穴を空ける役割を果たしている。

そのソラコムを、KDDIが子会社化するというニュースが2017年8月に飛び込んできた。サービス開始の2015年9月からわずか2年余りで、国内のモバイル通信を支える大手通信事業者の一角が、ソラコムがIoT市場に提供する価値を認めた格好だ。ソラコムは、何を目指してここまで歩み、これからどこへ進んでいこうとしているのか。

代表取締役社長の玉川 憲氏に想いを訊ねた。

スタートはAWSのオマージュ

ソラコムが目指すものを理解するには、玉川氏の経歴を知ることが手っ取り早い。玉川氏は日本IBMからアマゾン ウェブ サービス(AWS)を経て、ソラコムを立ち上げた。

「大企業向けのコンピュータの権化のような会社にいたときに、誰にでも分け隔てなくコンピュータのパワーを与えるAWSが始まり、これは良いビジネスだなと思いました。スモールスタートができるので、パッションがある人なら誰でもAWSを使ったビジネスを始められるのです。

AWS以降、シリコンバレーではUberやAirbnb、PinterestやDropboxなど多くのビジネスが始まりました。障壁をなくしたプラットフォームビジネスが、スタートアップやベンチャーに翼を与えたのです」

AWSのビジネスモデルに共感した玉川氏はAWSに移り、エバンジェリストとして日本でのAWSの普及に貢献した。クラウドがビジネスの形を変える力を持つことを、日本で広めていったのだ。

クラウドは、基幹系のシステムを動かすこともでき、コストも安く、スケーラブルな対応ができる。そうしたクラウドの真価を人に伝えていた玉川氏はある日、「モバイル通信のプラットフォームをクラウド上に作ったら、面白いことになるのでは?」と思いついたという。

「2014年、シアトルに出張中の夜に眠れず、仮想のリリースノートを書いてみたんです。翌朝、書いたものを改めて見たら、これはビジネスとしていけるのではないか?と。一念発起してプロトタイピングしてみたところ仕組みができてしまい、それならば会社を作ろう!ということになりました」

それが会社としてのソラコムの前身であり、サービスとしてのSORACOMの芽となった。ビジネスモデルは、「AWSをオマージュしました」と玉川氏。AWSがコンピューターの民主化(誰もが使える環境とするために障壁を低くすること)を実現したのならば、SORACOMはIT通信の民主化を目指そうというのだ。

IoTは様々なモノがインターネットにつながることにより集まったデータを分析して、新しい価値を生み出そうというものだ。しかしSORACOMが登場する前は、IoT的なサービスをしようとしても既存の通信事業者に法人サービスとして申し込むと、「SIMカード1000枚から」といった契約を求められるような状況だった。

これでは何か新しいことを始めようと思っても、スモールスタートはできない。1枚のSIM、1回線の契約から始められて、うまく行ったら数十枚、数百枚……と、段階を踏んで拡大していけるような「通信サービス」が、IoT時代には強く求められる。

そう実感した玉川氏は、Webから買えて、いつでもやめられる、AWSのような通信サービスをビジネスにすることにした。今までできなかったことを、サービスとして提供できるようにしたい。それが玉川氏の願いだった。

真のIoT実現に足りなかったピースが「通信」

具体的に、ソラコムはどのようなサービスを提供することにしたのか。玉川氏はこう語る。

「IoTを具体化するには、通信部分に足りないピースがありました。IoTデバイスがデータを収集し、データベースやストレージに格納するとき、どうやってデータを送るかです。SORACOMは、IoT通信に加え、データを送るために必要なデータ変換やクラウド連携、セキュリティ強化などのサービスを通信経路上で提供しようと考えたのです」

2015年9月のサービス提供開始時には、NTTドコモのMVNO(仮想移動体通信事業者)としてモバイル通信サービス「SORACOM Air」、データ転送支援サービス「SORACOM Beam」を用意した。

サービスを利用する際に必要なSIMはAmazon.co.jpで1枚単位から購入が可能で、1日当たり10円からの従量制という料金設定は大きな反響を呼んだ。通信サービスの核となるパケット交換機能などのプラットフォームはAWS上に実装し、信頼性と拡張性も確保した。玉川氏が思い描いた「IoT通信の民主化」の姿の一端が、具現化されたものだった。

その後も2年余りの間に次々と策を打った。通信機能としては、NTTドコモの回線を利用するセルラー通信だけでなく、低消費電力で広域の通信が可能なLPWA(Low Power Wide Area)方式も採用。LoRaWAN 方式を使う「SORACOM Air for LoRaWAN」とSigfox方式を使う「SORACOM Air for Sigfox」をラインアップに加えた。

企業がビジネスでIoTを展開するときに求められるセキュリティレベルに対応するため、専用線で接続する「SORACOM Direct」を提供。大量のデバイスを管理するための「SORACOM Inventory」も、実際の顧客からの要望に応えて今年7月に提供を開始した。

「IoTプラットフォームに必要な機能やサービスは、実際に利用するお客さまに教えていただいていると感じています。開発は2週間に1回のサイクルで進めて、優先順位の高いものから早期開発しています。実際、2年で新サービスが10以上、新機能は40以上、提供しました。もちろん、ムダなものは作らないように心がけています。共通プラットフォームのあるべき姿を考え、真摯に開発に向き合っているつもりです」

多くの企業が待ち望んでいた「誰でも使えるIoT通信」

この2年、IoTプラットフォームとしてのSORACOMは、玉川氏の描いたIoT通信の姿を具現化してきているようだ。玉川氏は、これまでの成果を大きく2つにわける。IoTによって今までできなかったことを実現する、従来の進化、改善系のソリューションと、全く新しいソリューションを提供する新規系の2つだ。それぞれに多くのビジネスが生まれてきている。

「改善系の代表は自動販売機のIoT化でしょう。まだ全国の自販機はごく一部しかネットワークにつながっていません。そうした中でダイドードリンコは以前から、スマートフォンアプリと連動したキャンペーンなど新しい試みを行っていました。さらにSORACOMを利用したIoT自販機「Smile STAND」を導入し、2018年春に15万台まで増やす計画だそうです。IoTデバイスの量が増えると、できることの質も変わっていくのです」

北海道帯広市に本社を置く十勝バスでは、SORACOMを利用してバスの位置情報サービスを提供している。長らく実現が検討されていたサービスだったが、従来の通信契約形態ではコストに見合わず実現できなかった。SORACOMの登場が、サービスの具体化を後押ししたのだ。

また、電子マネーを提供する楽天Edyでは、仙台のKoboパーク宮城で観客席を移動するビール販売員の決済端末にSORACOMを使用している。週末など限られた日しか営業しないため従量制の通信料金がフィットするほか、決済におけるセキュリティの要件も満たした。

これらは玉川氏も知らないうちにサービスへSORACOMが活用されていた、うれしい事例だという。これこそが、IoT通信の民主化の醍醐味だろう。

「新規系では、“こんなことができるんだ!”といったユニークなアイデアに基づいたサービスが始まっています。ベンチャー企業のチカクが提供する『まごチャンネル』はその代表です。まごチャンネルは、テレビにつける小さなセットトップボックスで、その中にSORACOMのSIMが入っています。スマートフォンを使えないおじいちゃん、おばあちゃんに孫の動画や写真を送って簡単に見せられる、孫専用のTVチャンネルを提供できるのです。SORACOMがあったからできたと評価してもらっています」

IoTを自然界に展開するビジネスを手がけるウミトロンは、魚群行動解析に基づいて給餌の量とタイミングを最適化するサービス「ウミガーデン」を提供する。スマートフォンや、通信のない場所ではSORACOMでデータを管理し、適切に給餌することで、コストがかさむ餌の最適化を図る。

見守りサービス「otta」を提供するottaも、SORACOMを活用している。通学路上にSORACOMのSIMが入った通信ゲートウェイを多数設置しておいて、子どもが身に着けているビーコン端末から位置を把握する仕組みだ。通信ゲートウェイを経由してデータをクラウドに送信、収集することで地域全体で子どもを見守れるようにする。

「通信が必要になったとき、SORACOMならすぐに使えますよ、というメッセージを届けたいです。SORACOMは、イノベーションのゆりかごなんです」

グローバル化と新料金で新しいソリューション創出へ

SORACOM Airなどのサービスの提供によって具体的な利用が数多く始まり、目標としていたIoT通信の民主化を実現したかのように感じる。しかし、ソラコムの目指すところはさらに先にあるようだ。その1つがグローバル化。2017年の初頭からグローバルに使えるサービスの提供を開始している。

「SORACOMのプラットフォームはAWS上にあります。これを世界に展開するAWSのクラウドにコピーすれば、サービスをグローバル化できるのです。日本でビジネスを展開しているお客さまからは、海外でSORACOMが使えるとありがたいという声を以前からいただいていました。それを、クラウドの特性を利用して短期間で実現しました。すでに日本を含む欧米アジアなど、グローバルで使えるようになっています」

日本で生まれたIoTサービスをグローバル展開しようとしたとき、通信事業者とのやり取りから地域ごとに対応した通信モジュールの実装まで、多くの手間がかかっていてはスピーディーなサービスの導入はできない。ソラコムの「グローバル向け Air SIM」を使えば、グローバル展開が容易になるのだ。

さらに2017年10月にソラコムは次の一手を打った。それがグローバル向け Air SIMで利用できるIoT向けの新しい料金体系の導入である。

「IoTの世界観を実現するには、ありとあらゆるモノに通信機能を実装していく必要があるわけです。しかし、これまでSIMカードは通信事業者の契約にひもづいていて、仕入れた瞬間から課金されてしまっていました。実際に商品として売れたときから、通信サービスの提供が始まるという仕組みがなかったのです。

ソラコムでは、基板実装できる小型のSIMの提供と、プラットフォーム側の新しい仕組みの導入によって、無線でSIMの契約情報を書き換えられるようにしました。そして、新しい料金体系では、『使った分だけ料金がかかる』という課金形態を実現しました。

製品にSIMを埋め込んで製造、出荷しても、それだけではまだ基本料金はかかりません。販売後にお客さまの手元に届いてはじめて、サービスの利用が始まり、基本料金がかかるといった使い方に対応できるようになりました」

グローバル化と新料金体系を組み合わせた最新事例が、ソースネクストの携帯型翻訳機「POCKETALK」へのSORACOMの導入だ。超小型の「通訳」デバイスで、英語、中国語、韓国語、フランス語など50言語以上での双方向音声通訳を、60ヵ国以上で利用できる。そのための通信インフラにSORACOMが選ばれた。世界60ヵ国以上での利用を固定料金で提供するためには、SORACOMのプラットフォームが最適な選択肢だったのだ。

「私たちが困難を乗り越えると、お客さまはその分だけ楽にビジネスを展開できるようになります。いままでできなかったことをやっていただけると、うれしいと感じます。これがプラットフォームビジネスの醍醐味ですね」

ボトルネックを次々につぶしポリシーを具現化

心の底からプラットフォームビジネスの醍醐味を楽しむ玉川氏。アイデアを持っている人が、それを実現するためのプラットフォームを提供するというポリシーは、AWS時代から変わらないのだろう。今年8月よりKDDIのグループに入ったことも、ソラコムが提供する価値をスピーディーに最大化していくためだという。

「KDDIのグループに入っても、会社の経営方針やブランド、開発速度から提供するサービスまで、何も変わっていません。グループ入りした理由は、セルラー方式のLPWAへの対応を早期に進めるためです。これまで単独でMVNOとしてサービスを提供してきましたが、KDDIの基地局などのアセットを活用することで、より素早く価値を提供できるようにしたいと考えています。クラウドネイティブなセルラー通信網の構築へ参加できることに、ワクワクしています」

IoT通信のプラットフォームとして、着実にクラウドからモバイル通信の分野でピースを組み立ててきたソラコム。しかしその先にはまだ課題があるという。

「IoTを実現するために、様々なサービスを提供してボトルネックをつぶしてきました。ところが、ある部分が満たされてくると、今度は他の部分がボトルネックになってきます。

クラウド、通信が満たされてきた現在は、ハードウェアがボトルネックになりつつあります。裾野が広がり、様々なIoTのPoC(Proof of Concept:概念実証)が行われるようになりました。SIMはすぐに手に入り、クラウドも使えるようになりましたが、ハードウェアはどこで買ったらいいの?サポートは?といった新たなボトルネックが顕在化してきたのです」

ソラコムは、IoTデバイスのPoCを容易にするため、1個単位から利用できるリファレンスモデル用のモジュールの提供を開始した。中国のスタートアップ企業Seeed Technologyと共同開発した「Wio LTE JP Version」がそれだ。SIMスロットやARMプロセッサーを搭載し、センサーモジュールを接続する端子を備えるため、単体でセンサーをつないでプログラムを動かし、通信ができる。9800円(税別)の端末で、すぐにGPSや温度センサーを使ったIoTデバイスのPoCが実現できるのだ。

「昔のITツールは、ハードウェアで100万円、ソフトウェアのライセンスに100万円といった規模のコストがかかってしまうものでした。しかし、時代は変わりました。(IoT初心者でも)個人でSIMを1枚、デバイスを1台買って、触ってみることが簡単にできるようになったのです。

誰かに話を聞いて終わりにするのではなく、自分の手で触ると世界が変わるはずです。IoTってこんなに簡単にできるんだ、そういう実感を持ってもらいたいと思います。あれこれ考える前に触ってみること、手を動かしてみることから見えてくることは大きいと思います」

玉川氏のコメントは、最後までIoTサービスや、さらに多様な新しいサービスを生み出そうとするすべての人たちへのエールに満ちあふれていた。プラットフォームビジネスの醍醐味を味わい続ける玉川氏とソラコムの支えの上で、多くの企業が新しい世界へ羽ばたいていく未来を楽しみにしているかのようだ。

<プロフィール>

玉川 憲

株式会社ソラコム 代表取締役社長
1976年大阪府生まれ。東京大学工学系大学院機械情報工学科修了。米国カーネギーメロン大学MBA(経営学修士)修了、同大学MSE(ソフトウェア工学修士)修了。
日本IBM基礎研究所でウェアラブルの研究開発、ソフトウェア事業部での技術営業・コンサルティングを経験。2010年にアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社し日本のAWS事業の立ち上げを指揮、2012年より技術部長としてアーキテクト、トレーニング、コンサル部隊を統括する。
2015年株式会社ソラコムを創業。「世界中のヒトとモノをつなぎ共鳴する社会へ」をビジョンに、IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を展開、IoTに不可欠な通信を柔軟かつセキュアに提供。
Forbes JAPANが選ぶ「日本の起業家ランキング2017」2位を受賞。
『IoTプラットフォーム SORACOM入門』『Amazon Web Services クラウドデザインパターン 設計ガイド』『同 実装ガイド』他、著作翻訳多数。

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