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イノベーション
2017.11.23

シリコンバレーで見たAIとIoTビジネスの未来【2】
AIブームを生んだ深層学習モデル、実用化を阻む弱点も

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人間や動物の脳神経回路をモデルとしたアルゴリズムを多層構造化した
ディープニューラルネットワークが、今注目を浴びている

 第1回では、車の自動運転における画像認識技術や工場で働く自動ピッキングロボットと機械の異常検知、そして線画の着色やアニメキャラクターの生成といったクリエイティブな分野で活躍するAIの事例を紹介した。

 深層学習(ディープラーニング)の手法を用いることで、一部の分野ではこれまで人の手で行われてきた作業が完全に自動化されたり、自動化できるようになるのも時間の問題だということだった。

 この勢いで、AI技術とそれを活用したIoTが社会に広く浸透し、驚くべきスピードで世の中が変わっていこうとしているのか、それともまだ何らかの越えられない壁があるのだろうか?

 2017年8月末にシリコンバレーで開催された「AI最新動向及びIoTビジネスの課題とオポチュニティ」から、そのヒントを見つけていく。

深層学習の精度が上がった2012年

 基本的なことに立ち返ってみよう。AI技術と一般的に表現されているものは、現在、深層学習(ディープラーニング)を含む機械学習(マシンラーニング)の手法をその一部として持つ包括的な概念だ。

 ここ最近みられるAI技術の急速な発展と開発の盛り上がりは、深層学習の技術によるところが大きい。これは、人間の神経細胞(ニューロン)をモデルにしたニューラルネットワークという情報処理システムを用いて、大量のデータから学習していく手法だ。

 Preferred Networks(PFN)が開発した「Chainer」も、このニューラルネットワークの設計、学習、評価といった深層学習の研究開発の土台となるもので、幅広い分野で活用が進んでいる。

 「深層学習というものがすごい」と世間の注目を集めたのは、2012年の出来事だ。世界的なAIの画像認識のコンテストであるImageNet Large Scale Visual Recognition Competition(ILSVRC)で、2012年に深層学習を使ったトロント大学のKrizhevskyのチームが圧勝したのだった。

この出来事以来、コンテストの上位チームは軒並み深層学習の手法を用いるように

 このコンテストは、コンピュータが写真などを解析し、そこに写っているものが何であるかを認識する技術を競うものである。従来の機械学習の方法を用いた他チームのエラー率が26%前後であったところを、この優勝チームは新たな手法である深層学習モデルによってエラー率15%台をマークした。

過度な期待を受け、AIブームは今がピーク

 年々、AIの画像認識の性能は改善され続け、現在では、コンピュータの画像認識の精度は人間のそれを超えるまでに達したと言われている。人間には識別困難でも、機械は認識できるというところまできたのだ。深層学習の技術は、現在のAIブームに至るひとつの大きなブレークスルーともいえる。

 客観的な指標からも、今がAI開発のピークにあるということがわかる。米コネティカット州スタンフォードを本拠地とするGartner(ガ―トナー)社の「Hype Cycle for Emerging Technologies」(先進テクノロジーのハイプ・サイクル)を見てみよう。

参照:ガ―トナーのハイプ・サイクル2017年度版(日本語版:https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20170823-01.html

 これは現時点における新しいテクノロジーの成熟度と普及度合いをグラフ化したものだ。その新技術の開発に投資するか、自社も参入するかといったビジネス上での重要な意思決定の参考にできるものである。

 描かれる曲線グラフの頂点のところに「ディープラーニング」と「機械学習」があるのがわかる。そのやや左、グラフの頂上の手前のところには「IoTプラットフォーム」とある。

 これは、ディープラーニングや機械学習といったAIの技術が今現在、「過度な期待」を受けているピーク時にあるということを示している。まさに今、メディアで日々話題になっているAIの状況にぴったり当てはまる。

 「過度」な期待と言うだけあって、この熱狂の裏では人知れず数多くの失敗事例もあり、これを乗り越えて技術が成熟し安定的なものになれば、市場に普及したことを示す「生産性の安定期」の位置、つまりこのグラフのもっとも右側のフェーズに記されることになる。

 高かった期待値とは裏腹に、AIの実用化がうまくいかず市場から忘れられていくこともありえる。このハイプ・サイクルでは「これから10年にわたり、AIは最も破壊的な技術領域になる」と分析し、「どこでもAIとなる世界」の到来を予測している。

 一方、IoTプラットフォームが頂上のやや左側にあるということは、今、ピークへの山を登っている途中ということ。IoTプラットフォームがAIの次に最も熱くなるか、はたまた、AIブームを追い越していくか?

 このように、ディープラーニングと機械学習の技術開発はまさに今、最盛期を迎えていると言えるが、はたして、期待通りに実用化が進んでいくのだろうか?

深層学習モデルの弱点

 アメリカでは、深層学習モデルをだますような物理攻撃が可能だという「Robust Physical-World Attacks on Machine Learning Models」という道路標識の認識モデルの実験があった。

写真のように小さいシールでも、機械の画像認識を誤らせる

 例えば、アメリカの「一時停止」の標識。赤地に「STOP」の文字が白抜きしてある、人間の目にはとても明瞭なサインである。この標識の一部に数か所、ごく小さなシールを貼ったところ、このコンピュータは「45マイルの速度制限」の標識として認識してしまうというのだ。

 シールを貼っても「STOP」の文字はほとんどの部分がそのまま露出しており、人間なら当然のごとく一時停止の標識だと認識するのだが、現段階の自動運転車にこのシールのついた標識を見せたとしたら、ストップサインを無視して行ってしまうだろう。

 そして、黄色のひし形の標識版に黒字の矢印で示す「右折して迂回」のサイン。この標識の黒字の矢印の部分にステッカーを貼って、白と黒のグラデーションのモザイクカバーを付けると、コンピュータはまたも同じく、速度制限として認識してしまったという。

 PFNの比戸氏はこの理由を「機械に学習させるデータセットには、きれいな標識しか入っていない。こういうシールが付いたりステッカーが貼られていたりするものは、モデルからすると完全に未知なモデルだから」と解説する。

 人間の目にとっては、全体の認識にとっては影響がないととらえられるようなものでも、機械の認識モデルは見たことのない極端な入力と解釈し、結果として全然違うモデルだと判定してしまうのだ。

 これは、自動運転車の安全面という側面からみると大きな問題だ。ちょっとした細工をするだけで機械の画像認識を誤らせることができるということは、悪意をもってそうした細工=“攻撃”をすることも可能だということ。

 ここを克服しなければ、車の運転を完全に自動化することは難しい。実際に、こうした“攻撃”に対する“防御”面の研究開発も進んでおり、攻撃と防御の両方で競い合うコンテストも開かれている。

 このように、AIの技術開発は日々進歩し、同時にその弱点も見つかってくる中で、「ゴール」にはいつ到達するのだろうか? ガ―トナーのハイプ・サイクルが示唆するように、10年ほどで「どこでもAIとなる世界」になるのだろうか? 次回は人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事「シンギュラリティ」にも言及していく。

第3回に続く)

 

JBPRESS

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