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イノベーション
2017.08.22

AIは人間の仕事を奪うのか? 歴史が示す意外な事実
IoT時代、<プロフェッショナルな仕事>が変わる(上)

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人間の仕事はAIに取って代わられるのか。

 AIが人間の仕事を奪う・・・。

 それはより厳密に言えば、AIが主体的に人間の仕事を奪取するのではなく、あくまでもAIを管理する側の人間がその導入を決めることで、特定の仕事をする人間が不要になるということである。

 例えば、自動運転サービスは多くのタクシー運転手や長距離バスやトラックのドライバーを失業させる可能性が高い、と経済学者によって指摘されている。

 しかし、ここで気をつけなくてはいけないことは、人間の役割をAIが代行することで、人間が職場から排除され、経済的に追い込まれるという、単純な変化に目を奪われてはいけない、ということだ。

 逆に、AIの導入が進めば進むほど、個々のお客さまの気持ちの変化に寄り添い、お客さまの体験が豊かになる方向で企業(や病院などの公共サービス機関)が提供する商品やサービスの内容を最適化(デザイン)する目配りや気配りが、企業間競争の最強の差別化ドライバーとして注目されるはずである。

「5年以内に約500万人の雇用が失われる!?」

 2016年1月に開催された「世界経済フォーラム」(ダボス会議)。

 フォーラムの創始者であり会長でもあるスイスの経済学者クラウス・シュワブ氏が『仕事の未来』というレポートを発表、「AI、ロボット技術、バイオテクノロジーの発展で5年以内に約500万人の雇用が失われる」というショッキングな報告を行ったことで大きな注目を浴びた。

 イノベーションにより人間の仕事がなくなるという指摘は、実は最近に始まったことではない。

 AIやIoTという言葉が広く世の中に出ていなかった2011年には、MITスローン・スクールの経済学教授エリック・ブリニョルフソンらが著書『機械との競争』(原題は『Race Against The Machine』。日本語版:村井章子訳 日経BP社 2013年)の中で「ICTの発達は、きわめて高いスキルをもつトップ1%のスーパースターと資本家に大きな利益を与える一方で、中間層の人々から仕事を奪い、失業を増加させ、収入を減らしている」と警鐘を鳴らした。

 また、2014年、オックスフォード大学のAI研究者マイケル・A・オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フライ研究員が発表した有名な研究がある。

『雇用の未来 コンピュータ化によって仕事は失われるのか』(原題は『THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION? 』)では米国労働省が定めた702の仕事(職業)一つひとつが何%の確率でAIロボットに取って代わられるのかを調べ、今後10〜20年程度で米国の雇用者の約47%の仕事が消滅するリスクが高い、と主張した。

表の中で左側が90%以上の確率でなくなる仕事、右側が逆に90%以上の確率で残る仕事。
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 人間にしかできない新しい発想や価値を生む以外の仕事は「シンギュラリティ」(Singularity: AIが人間の知性を超える技術的特異点。2045年頃と推察される)を迎える前に消滅してしまう可能性が高い、という考え方には一応の説得力がある。

 残る方に分類されている仕事でも、例えば教師という仕事が「学びのパーソナル化」が進むことにより、「クラスで学科を教えること」から「生徒個々人の成長をサポートするファシリテーター」へと変わるようなイメージで、その仕事の質や内容ががらりと変わってしまう可能性も出てくるだろう。

【参考】IoTでお客様のエクスペリエンスが変わる6つの事例(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47632

歴史は語る:技術革新は人間の仕事を奪わない

 ここで歴史を紐解いてみよう。

 技術革新によって人間の仕事が奪われる現象は、19世紀初頭の産業革命の頃から繰り返されてきた。

 産業革命当時、機械使用の普及により、それまで手作業で織物を作っていた手工業者・労働者たちが失業のおそれを感じ、その元凶である機械を破壊し、資本家に使用を止めさせる運動を起こして大きな社会問題となった。

 それが「ラッダイト運動」(Luddite Movement、1811年〜1817年)である。英国政府はこの破壊運動を抑止するため、機械破壊を死罪にする法律を何度も制定し、実際に襲撃者の死刑も執行されたが、皮肉なことに運動は何度も再燃した。

 しかし、より大事なのは、「ラッダイト運動」の後、現実に起きた手工業者・労働者たちの境遇の変化である。

 彼らが恐れていた通り、現実に機械の導入のせいで仕事を失い、路頭に迷ったのであろうか。

 結果的には、機械の進歩や普及により、生産効率自体が飛躍的にアップして企業の生産力が向上した。そして、増えた分の利益が資本家から手工業者・労働者たちへ給料の形で還元されることによって彼らの所得が増え、中産階級が生まれたのである。

 産業革命時代の英国の経済学者カール・マルクスは『資本論』の中で、資本家と労働者の二極化が進むと考え、労働者は物理的な生産手段ではなく社会的な搾取形態を攻撃すべきだと説いたが、現実にはカール・マルクスの見立ては見事に外れたのである。

 しかしながら、その後、こういった技術的失業(Technological Unemployment)に対する脅威は、シモンド・ド・シスモンディ、トマス・ロバート・マルサス、デビッド・リカードなど19世紀の著名な経済学者によってたびたび俎上に乗せられ、20世紀になってジョン・メイナード・ケインズにも取り上げられた。

 1990年代以降、IT技術の導入がもたらす技術的失業を懸念し、テクノロジーの発達と普及に対して反対を唱える「ネオ・ラッダイト運動」が起き、ノーベル経済学賞の受賞者でもあるデール・モーテンセンとクリストファー・ピサリデスのような主流派の著名経済学者によって研究されるようになった。

「ネオ・ラッダイト運動」自体は「銀行にATMが導入されると窓口係が職を失う」「Amazonが普及すると街中の書店は廃業に追い込まれる」といった近視眼的なものだが、「シンギュラリティ」への道筋が明確になっていくに連れて、今後、似たような形で技術的失業に対するノイズが上がっていく可能性がないとは言えないだろう。

AIがもたらす創造的破壊:新たな職種や雇用が創出される

「ラッダイト運動」の後、手工業者・労働者たちが新たに中産階級という層に変化していったように、技術革新が、単純な仕事を人間から奪う一方で新たな付加価値を生み出す職業を世の中に生み出してきた、という歴史的な事実に注目すべきである。

 例えば、産業革命後、しばらくの間、機能性はありつつも、デザイン的な美しさに欠けていたり、他社の製品と似通って独自性に乏しかったりするプロダクトが多かった。

 機能性は満たしつつも、もっと造形的な美しさを追求しても良いのではという人々の欲求から、20世紀初頭になると「インダストリアルデザイン」という概念が米国や欧州で発達し(T型フォードはその典型である)、「デザイナー」という職業が生まれたのである。

 デザインが20世紀以降、ブランドの差別化のドライバーのひとつとして機能していることは疑う余地もない。

 同様の変化は現在進行形で起きている。

 デジタル化の急速な進展により、新聞や雑誌などのアナログのマスメディアが衰退する一方、インターネット関連のメディア(ウエブマガジン、企業のオウンドメディア、SNS、ネット通販サイトなど)が誕生し、ウエブマガジンの記者、ITエンジニア、ウエブデザイナー、ウエブ解析士など次々に新しい雇用を創出している。

 この変化は今後の企業経営者の取るべき戦略、つまり「ヒト・モノ・カネ」のリソース配分をどう考えるかという点で、具体的な方向性を示唆していると言えるだろう。

 それは、とりもなおさず、お客さまの気持ちの変化に寄り添う形で、コンピュータと人間との役割分担を考えることである。

 AIの導入で余剰になった人材リソースや資金をそこに重点投入して、お客さまとの接点で機能させて行くことが必要だ。

 銀行の窓口係、保険の営業職員や代理店の事務職員、携帯電話のショップの店員などはAIに仕事を奪われるのではなく、AIの導入によりその立ち位置がよりお客さまに近い場所へと変わり、AIができない「人間ならではの発想や価値の提案」をお客さま主語で専門的に担うことが求められるはずだ。

(続く)

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