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イノベーション
2017.01.12

ドイツのIoT最前線は「アジャイルな組織」への変革
アイデアと意志を持った従業員を自由に暴れさせよう

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ミュンヘンの「BMW Welt」(BMWワールド)。BMWは「BMW Retail Online」という、ディーラーとも協業して自動車の販売を行うプラットフォームを立ち上げた。(写真はイメージ)

 日本では昨今、欧米から輸入されたIoTという言葉を旗印に、「どんな新しいビジネスモデルが成立するのか?」「どう儲けるのか?」「経営はどう変わらなければならないのか?」という議論が活発にかわされている。

 そこで、「IoT」「Industrie4.0」などの発信源である欧米、特に筆者が滞在していたドイツでは何が起こっているのかを、「どう変わり、何を守るのか」という切り口で簡単に紹介したいと思う。

変革その1:自らの変革、ヒトの変革に挑む

 IoTの議論で陥りがちなのが、自分たちのマインドセット、価値観、働き方を変えることから目を背け、テクノロジーを使ってお金儲けをしようという安易な発想である。

 ドイツでは、Industrie4.0というキーワードもさることながら、ここ1年ほどで「digitalisierung=デジタル化」という言葉が頻繁に使われる様になった。この言葉は、繋がることに焦点を当てたIoTや、工場やサプライチェーンといったイメージが強く根付いてしまったIndustrie4.0よりも広いコンセプトの言葉で、顧客価値を実現するあらゆるプロセス、働き方、資産をデジタル化しようという意味が込められている。この言葉からは、IoTによるサービス事業の拡大だけでなく、社内のプロセス、ヒトも変わらなければならないというIoTに対する姿勢が伺える。

 近年、あるドイツの大企業は、デジタル化時代に対応するためのチェンジマネジメントのプロジェクトに取り組んでいたという。そこでの重要なテーマは、デジタルな会社とは何か、組織はどうあるべきか、経営者や従業員がどう働いていけばいいか、どう評価されるべきか、といった自社の変化の方向性を改めて見極め、導入することであった。

 本件は、IoTを活用した新規のビジネスモデルや、そのPoC(Proof Of Concept)があらかた終了した上での話であり、これからIoTで新規のビジネスを探そうという企業にはやや先のことのように思えるかもしれない。だが、IoTも社内の人材がついてこなければビジネスは回らない。いま一度、“Are we ready for IoT / digitalization?” と自らに問いかけてみてはいかがだろうか。

変革その2:新しいことを考える場を創る

 IoT時代を特徴づけるのが、「共創」や「PoC」といったキーワードである。他社や異業種を巻き込んで素早くコンセプトを実証し、サービスを随時改善していく方法論である。オープンイノベーションアジャイル開発として、IT業界では既によく知られた方法論であろうと思うが、それ以外の業種では「言うは易し」で実現することが困難なケースもあるだろう。

 私の友人のドイツ人コンサルタントが日系企業とプロジェクトを行っていた際には、「日本企業の伝統的な企業には、なかなかオープンイノベーションや、アジャイルといったキーワードが伝わらない。どうしても既存の概念を大事にしてしまって、飛んだ発想で考える方法論を根付かせるのはなかなかに大変だ」と難しさを語っていた。

 例えば、ドイツのある大手製造業では、社内のアイデアコンペのために50万ユーロの資金を用意している。参加者が自らのアイデアを応募すると、その内容が社内ポータルで1カ月にわたり掲載される。その期間中に彼らは、予算配分権限を割り振られた従業員=出資者と議論し、出資を引き出す。

 また、より短期的な実現可能性があるアイデア(3年以内)に対しては1000万ユーロの社内向けファンドを通した投資が行われる。受賞者の中には、40年もアイデアを温めていた方もいるそうだ。出資を勝ち取った従業員は、自ら提案した日常業務とは別のアイデアを実現するための権利(と責任)を手に入れることになる。

 その他にも、IoT事業を形にするための戦略子会社を社長直轄で作った会社や、SAPやダイムラー(Daimler)といった大手の企業が、社外かつ複数の地域でデジタル時代の新たなビジネスモデルを顧客も巻き込んで開発・試行する拠点を持つ。

 トヨタ自動車もオープンイノベーションプラットフォームである「TOYOTA NEXT」を2016年12月に発表したが、ドイツの大企業でも同様の取り組みや、社内ベンチャー制度の活用が進んでいる。

 どの例にも共通するのが、アイデアと意志を持った従業員を自由に暴れさせるための場を会社として用意しているということである。背景には、IoT時代に柔軟に素早く事業を立ち上げるためには従来のスピードや発想では遅すぎる、企業にできるのは資金と場を用意することである、といったある種の割り切りがある。

「IoTはこれまでとは違う」「考え方から変えなければ」と言われても難しい。誰もついてこない。そんな時は、少し頭を切り替えるために、普段の仕事を忘れられるような組織や場所を作ってみてはどうだろうか。

守る点:顧客接点だけは逃さない

 ドイツの自動車メーカーは、こぞってIoTも活用したデジタルサービスに舵を切っている。

 例えばアウディ(Audi)は、将来的には電子化した部品やソフトウェア、IoTを活用したデジタルサービスが売上の約半分を占めると宣言している。

 また、BMWもイギリスで「BMW Retail Online」という、ディーラーとも協業して自動車の販売を行うプラットフォームを立ち上げた(顧客接点はBMWだが、商流はディーラーを通す)。今後は自動車販売のオンライン化を推し進めていくものとみられる。

 どちらの企業もIoTの活用、デジタルなサービスの提供という点で共通しているが、もう1つ重要な共通点が、顧客接点のデジタル化と囲い込みである。

 アウディは、IoTを含むサービスについて、全てを自社で開発せず、協業を通して進めるとしながらも、「myAudi」というプラットフォームで顧客接点は自社が握ると宣言している。また、BMWの例は、IoTというよりは、O2O(Online to Offline)と呼ばれる取り組みに近いが、IoTのサービスを提供する上で最も重要な、顧客接点の囲い込みのための取り組みとして紹介した。

 近年欧州で流行していたのが、ノキア(Nokia)などの携帯端末メーカーがどのように業績を悪化させていったのか、グーグル(Google)やアップル(Apple)にどう破れていったのかといった視点のベンチマークである。伝統的な端末メーカー凋落の要因として必ず挙げられるのが、顧客接点のデジタル化への対応が遅れ、顧客価値の低いコモディティ提供者になってしまったことが挙げられる。

 自動車の場合には、クルマという顧客接点を活用するためのコネクテッドサービスに加えて、従来分散しがちなディーラーでの顧客接点をデジタル化・一元化する「BMW Retail Online」のような取り組みが鍵になると考えられる。IoTサービスを提供するといっても、顧客接点がなければ、サービス対象が見えず、顧客に提供する価値はさらに闇の中になってしまうというわけだ。

 いま一度、顧客接点を自社は掌握しているか、異業種に顧客接点を奪われる隙がないか、デジタル化する顧客接点を囲い込むための施策が打てているか、再点検してみてはいかがだろうか。

JBPRESS

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