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テクノロジー
2016.12.26

会津の“幻のトマト”、育てていたのはITだった
土壌の状態をセンシングして水と肥料を自動供給

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アルス古川のビニールハウスで栽培されているミニトマト(写真提供:アルス古川)

「これ、トマトじゃないよね!」

 ビニールハウスの中で、穫れたてのミニトマトを口にした小泉進次郎氏は驚きの声をあげたという。

 小泉氏は、本当は生のトマトが苦手だそうだ。「でも、これなら食べられる。もうトマトじゃないね。さくらんぼみたいだ」。トマトであることを忘れさせる、まるでフルーツのような甘さと食感を小泉氏は絶賛した。

会津に来なければ手に入らない

 2016年8月、衆議院議員、自民党農林部会長の小泉進次郎氏が福島県の農業の視察に訪れた。その際、訪問先の1カ所となったのが農業法人「アルス古川」(福島県・会津坂下町)である。小泉氏が試食したのは、同社のビニールハウスで育てられたミニトマト。品種名は「プチぷよ」という。

 アルス古川のプチぷよは、“幻のトマト”と言ってよい。なぜなら食べられるのは1年の中で7~8月だけ、そのうえ会津坂下町まで足を運ばなければ手に入らないからだ。

「皮が本当に柔らかくて輸送できないんです。タオルでふくと皮がペロッと向けてしまうくらい。輸送したらすぐに痛んでしまいます。そんな状態で人に渡したくないので、地元の直売所だけで売っています」(アルス古川の古川純平さん)

 プチぷよが希少なのは、厳しい品質チェックのためでもある。

「1粒1粒丁寧にふきながらチェックしています。爪楊枝でこすったくらいのほんの小さな傷がついていても、少しでも傷んでいたら出荷しません。だから半分はロスになっています」(同)

 当然、価格は高くなる。直売所では、普通のトマトの約3倍の値段をつけて売っている。だが、それでも欲しいという客が後を絶たない。収穫期に店頭に並べると、毎日、跡形もなく売り切れる。「〇〇時に行くから〇キロ確保よろしく」「明日行くので〇パックお願いします」と事前に予約して買いに来る客も少なくない。

「磨き抜かれた逸品」と命名してプチぷよを販売している(写真提供:アルス古川)

ITシステムが自動的に水と肥料を供給

 実は、この貴重なミニトマトはITシステムによって育てられている。

 アルス古川ではミニトマトの栽培に、ITを活用した養液土耕栽培システムを利用している。ルートレック・ネットワークス(神奈川県川崎市)が開発し、2013年より販売を開始した「ZeRo.agri(ゼロアグリ)」という名称のシステムである。

 システムの仕組みはこうだ。

 ビニールハウス内の畑には、土壌センサーが差し込まれている。センサーは1時間ごとに地温、土の中の水分量、EC値(電気伝導度)を測定し、土壌の状態を把握する。ハウスの外には日射センサーが設置され、日射量を計測している。システムは日射量と土壌の状態を合わせて、ミニトマトに必要な培養液(水と肥料を合わせた養液)の量を判断し、自動的に供給する。最適な培養液の量は、タブレット端末やスマホの画面から古川さんが設定している。

「ゼロアグリ」のシステム構成(図版提供:ルートレック・ネットワークス)

 アルス古川がこのシステムを導入したのは2014年である。ちょうど、福島県が農業の復興を加速化させるための「ふくしまから はじめよう。攻めの農業技術革新事業」を推進しており、その事業の補助金を利用してシステムを導入した。

「県の農業普及所からやってみないかと声がかかったんです。面白そうだし、作業が楽になるんだったらいいかなと」(古川さん、以下同)

 最初は軽い気持ちでスタートしたというが、得られたメリットは想像以上の大きさだった。

「1人の従業員が畑に張り付いている」のと同じ

 まず、農作業を大幅に効率化できた。それだけではない。効率化と同時に、手作業以上にきめの細かい丁寧な世話が可能になった。

 一定の品質の野菜を育てるためには、土の中を安定した状態に保つ必要がある。しかし、安定させるための調整は非常に難しい。例えば「水やり」。以前は、ミニトマトの畑に毎朝1回、水をあげていた。その日にあげる水の量はトマトの状態を見ながら調整する。

「ただ、調整は“何となく”の感覚なんですよね。調整していても、夏場なんかはやっぱり土が乾いているときがありました。水が足りなくてトマトがくたっとなっていたりすることがあるんです」

 今は、システムが自動的に給水を行う。おまけに1日に1回だけではなく、少量ずつの水を1日に10回ぐらいに分けて供給するのだ。

「システムが1時間ごとに土の中の温度や水分量、肥料の情報などを測定しています。今、土の中はこうだから水や肥料はこれぐらい必要だなというのを自動的に弾き出してくれる。例えば、日が当たって蒸散が多くなるとトマトは水を飲むペースが上がります。その状況を機械が検知して、水を多めに供給してくれるというわけです」

 感覚的には「1人の従業員がずっと畑に張り付いて、丁寧に水をあげているのと同じ」だという。「以前は、こちらの気分で勝手に水をあげていたのが、今はトマトの声を聞きながら水をあげるようになった感じですね。だから、失敗が少ない。実になったときもA級品が多くなりました」

 農作業が効率化されたことで、ミニトマトの収量も増えた。

 システムを利用したミニトマト栽培は、当初は4棟のビニールハウスでスタートした。その後、プチぷよ以外の普通のミニトマトの栽培にもシステムを利用するようになり、現在、ミニトマト栽培のビニールハウスは10棟に増えている。

 水や肥料をあげたり量を調整する手間がなくなったこと、また、土の状態が安定してトマトが病気になりにくくなったことなどのおかげで、同じ人員で栽培できる量が一気に増えたのだ。

ビニールハウスの前に立つ古川純平さん。アルス古川ではコメを中心にミニトマト、青菜など様々な農作物を栽培している

農業の後継者不足問題にも有効?

 ITシステムの活用は、就業者の減少、高齢化、後継者不足という日本の農業が抱える問題の解決にも役立ちそうだ。

 農業は勘と経験がものを言う世界である。「父親は、農業を覚えるのに10年はかかるだろうと言います。実際、水や肥料をあげる感覚を掴むまでは、ものすごく時間がかかります。教えてもらってもなかなか分からない。一つひとつ経験しながら感覚を掴んでいくしかありません」

 だが、システムを使うと、農作業の方法を何年もかけて体に覚え込ませる必要がない。システムの使い方さえ覚えれば誰でも農作物の世話をできるのだ。

「もしも、農業なんかまったくやったことがない新入社員にいきなりハウスを任せたとしても、たぶんきちんとトマトを育てられると思います。一番重要なところはシステムがやってくれるので失敗がないからです」

 アルス古川を皮切りに、近郊でも同様のシステムを導入する農家が増えているという。「今は5軒ぐらいの農家が導入して、アスパラガスやイチゴ、花などを育てています」。ITシステムを活用した農業は会津で着実に広がりを見せている。

JBPRESS

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