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テクノロジー
2016.12.05

日本はどうする?IoTの“根幹”を欧米2社が制圧
IoTビジネスの序盤戦はすでに決着済みの様相

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IoTの普及によって製造業の概念が根本的に変わる可能性がある。GE出資の合弁会社が製造する航空機エンジン(資料写真、出所:Wikipedia)

 IoT(モノのインターネット)時代の到来を目前に控え、先行企業の動きが活発化している。製造業のサービス化は水面下で急速に進んでいるが、残念ながら日本企業の存在感は薄い。

 かつて日本の半導体メーカーや電機メーカーはビジネスモデルの転換が遅れ、国際競争力を失った。このままでは、重厚長大産業の分野でも同じ結果になりかねない。残された時間はほとんどないことを考えると、欧米企業の傘下入りなど現実的な選択肢も必要かもしれない。

GEとシーメンスが立て続けにIoT関連の買収を実施

 先月、偶然にも同じ日にIoT関係の大型買収案件が立て続けに発表され、関係者を驚かせた。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)は11月14日、在庫管理や人事管理システムを開発する米サービスマックスを9億1500万ドル(約990億円、当日のレート)で買収すると発表した。GEはIoTビジネスのプラットフォームとなるシステム基盤「プレディックス」をすでに開発しているが、事務管理システムをシステム基盤に接続することで企業情報システムとの本格的な連携を狙う。

 同じく14日、GEのライバルである独シーメンスも米国のソフトウエア企業であるメンター・グラフィックスを45億ドル(約4860億円)で買収すると発表した。シーメンスはドイツのソフトウエア企業SAPと組み、GEと同様のIoTシステム基盤「マインドスフィア」を提供している。シーメンスは、設計システムに強みを持つメンター社を買収することで、製造業におけるIoT化をさらに進めていく。

 ちなみにシーメンスは、1週間後に米マイクロソフトとの提携も発表している。シーメンスが持つIoTシステム基盤をマイクロソフトのクラウドサービスで利用できるようにする。一方のGEはその数日後、米国のAI(人工知能)ベンチャー2社を買収すると発表した。

 一連の買収案件のキーワードになっているのは「IoTシステム基盤」である。今回の買収では、このシステム基盤上で動作する応用ソフトウエアが主なターゲットとなった。このことは、IoTをめぐる初期の開発競争がすでに最終段階を迎えつつあることを意味している。

 産業向けIoTの分野については、おそらく来年あたりから、GEとシーメンスが提供するこれらのシステム基盤を中心に回り始めることになるだろう。後発の日本メーカーは、厳しい状況に追い込まれる可能性がある。その理由は、純粋な製造業の世界にも、日本が不得意とするIT業界のルールが持ち込まれてしまうからである。

カギを握るIoTシステム基盤

 これまで重電や機械といった分野は、メーカーごとに縦割りで製品を開発するという、いわゆる垂直統合モデルが主流だった。以前は電機の分野も同じだったが、IT化の波が一気に押し寄せ、垂直統合モデルから水平統合モデルにシフト。多くの日本メーカーがこの流れに追いつけず、競争力を失ったことは説明するまでもない。

 IoTの普及が、重電や機械といった分野に同じような動きをもたらす可能性が高いというのは以前から指摘されていた。ITの世界では、マイクロソフトやインテルといった企業が水平分業化の主役となったが、IoTの分野では誰がその役割を担うのか世界中の関係者が注目している。

 IoTは新しい技術なので、業界の動きもまだまだ流動的だが、少なくとも、現時点において業界の主導権を握っているのは、米GEと独シーメンスの2社であることはほぼ間違いない。そして、両社の力の源泉となっているのが、このIoTシステム基盤である

 IoTシステム基盤をひとくちで説明すると、IoTに関する情報処理を一手に担うソフトウエア群ということになる。パソコンやスマホの世界でいえば、ウィンドウズやアンドロイドといったOS(基本ソフト)に近い存在と思えばよい。

 IoTが実現すると、産業機器に搭載されている無数の部品から、ネットを経由して、随時、運転状況などに関するデータが送られてくる。データセンターではこれらの情報をリアルタイムに近い形で解析し、トラブルの発生を予測したり、必要な交換部品の手配を行う必要が出てくる。さらには、どのように機器を運転すれば、エネルギー消費が少なくなるのかといったアドバイスまで顧客に行う。

 従来の製造業はモノを作って顧客に納入すればそれで終わりだったが、IoT時代では、その後のメンテナンスや運用管理も含め、すべてを請け負うというスタイルに変わらざるを得ない。こうなってくると、製造業はもはやサービス業といっても過言ではない。IoTが現代の産業革命とまで言われるのは、IoTの普及によって製造業の概念が根本的に変わる可能性があるからだ。こうしたビジネスモデル変革のカギを握っているのが、システム基盤ということになる。

最も重要なのはデータベースの高速化技術

 システム基盤の中でも特に重要となる技術はデータベースだと言われる。IoTでは、世界中に散らばる無数の機器から送信されてくる大量のデータをリアルタイムに近いスピードで処理しなければならない。事業者が運用するシステムのデータベースには極めて大きな負荷がかかってくるが、従来のデータベースでは、処理能力には自ずと限界がある。つまり、IoTの処理に特化した高性能なデータベースを開発できるかが、IoTビジネスの勝負の分かれ目ということになる。

 この点において、GEとシーメンスは他社に比べてかなり先を行っている。GEは10億ドル以上の資金を投じてIoTシステム基盤である「プレディックス」を開発したが、ここでは、まったく新しいデータベース・システムが採用された。GEが採用したデータベースは「グラフ型データベース」と呼ばれるもので、これまで企業情報システムにおけるデータベースの主役だった「リレーショナル・データベース(RDB)」とは異なる概念で設計されている。

 グラフ型データベースは、フェイスブックといったSNS企業やアマゾンなどのECサイトが、知り合いを探し出したり、お勧め商品を抽出する目的で実用化している。GEはこれを工業分野でも活用できるように独自に開発を重ねた。

 一方、シーメンスはドイツのIT企業であるSAPと組んでこの問題を解決している。SAPはERP(統合業務パッケージ)を開発する世界でも有数のソフトウエア企業だが、同社はIoT時代をにらみ、データ処理を高速化した新しいデータベース「SAP HANA」を開発した。シーメンスのシステム基盤である「マインドスフィア」はSAPのデータベースとセットで提供されるケースも多い。

 HANAは、これまでハードディクス上に格納していたデータをメモリ上に移すことで、高速処理を実現している。つまり、既存のデータベースの仕組みはそのままに、処理の高速化に力点を置いた製品ということになる。

 データベースの高速化に対する米独のアプローチの違いは非常に興味深い。米国は数学的にまったく新しいアルゴリズムを採用し、抜本的なパフォーマンス改善を狙っている。GEのやり方は、リスクも大きいが、成功した時の効果もやはり大きい。一方、ドイツは、既存技術の延長線上としてデータベースの高速化を実現した。確実性を優先したやり方といえる。

 残念ながら、一連の開発競争の中に日本企業の名前は出てこない。GEとシーメンス=SAP連合は、初期の開発段階を終え、関連する業務アプリケーションの充実を図っている状況だ。両社の優位性は圧倒的に高く、IoTの業界では、しばらくの間、両者が世界をリードしていくことになるだろう。

水平統合と垂直統合のハイブリッド

 GEやシーメンスは、もともとの事業領域である産業用機器の分野をベースに、ソフトウエア基盤の開発を行ってIoT時代における主導権を確保しようとしている。GEやシーメンスはこれらのシステム基盤を外部に開放しており、後発メーカーの中には、両社のシステム基盤に乗る形でビジネスを展開するところも出てくるだろう。

 先ほど筆者は、重電や機械の分野も水平統合になると説明したが、現実は少し違う。従来から続く垂直統合のモデルをベースに、ソフトウエアの部分は水平統合を目指すという少し複雑な事業構造になる可能性が高い。

 既存のIT産業の場合、マイクロソフトのような企業はハードウエアの部分にはノータッチだったが、IoTではマイクロソフトに相当する位置付けになりそうなのが、GEやシーメンスといったハードメーカーである。両社がソフトウエアの分野でスタンダードを確立した時の影響は大きい。

 こうした環境下において、システム基盤でスタンダードを握れなかったメーカーは二者択一を迫られる可能性が高い。競争力が多少落ちても構わないので垂直統合モデルを維持するというやり方と、GEやシーメンスの傘下に入り、機器の部分におけるビジネスで生き残りを図るというやり方である。

 日本メーカーがGEやシーメンス連合と同レベルの開発投資を今から実施するのは現実的に難しい。あまり望ましい形ではないかもしれないが、日本メーカーは思い切ってGEもしくはシーメンス陣営の傘下に入ってしまい、その中で、顧客との関係を維持するという決断も場合によっては必要となるかもしれない。システム部分での利益は、両社に吸い上げられてしまうが、顧客との関係は維持することができる。

JBPRESS

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