十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の名前を知らない日本人はまずいないだろう。記憶の糸をたどれば、江戸時代を代表する文学作品の一つとして日本史の教科書に載っていたのを、きっと、思い出すはず。 実際に読んだことはなくても、「弥次さんと喜多さんの凸凹コンビが旅の途中で繰り広げる騒動を面白かしく綴ったコメディ的作品」ということもぼんやりとは知っている。でも、それだけではもったいない。この作品のヒットぶりを紐解いていくと、江戸時代の出版事情が見えてくるから面白い。國學院大學中村正明准教授の特別講義にようこそ!  日本で最初の出版社は江戸時代前期、京都で誕生しました。江戸前期は「上方」が文化の中心であり